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今回は、近所の知人、百合さん(仮名)に聞いた、勤務先の花屋での出来事をご紹介します。ある日の午後、店を訪れた70代くらいの男性から「きれいすぎない花束を作ってほしい」と頼まれた百合さん。花束には珍しいその注文には、男性が長い間大切にしてきた思い出が関係していました。

初めて妻へ贈った花束

写真の女性は男性の奥様でした。約50年前、初めてプレゼントした花束を持っているのだそうです。当時はお金に余裕がなく、花店で売れ残っていた花を安く譲ってもらい、新聞紙に包んで渡したとのこと。

現在、奥様は記憶が少しずつ曖昧になり、男性の名前を思い出せない日もあるそうです。それでも昔の写真を見せると、「この花、うれしかったのよ」と笑うのだとか。だから結婚記念日に、あの日の花束をもう一度渡したいと話してくれました。

「立派な花束にしたら、あの日のものだと気づかないでしょう。だから、あまりきれいにしないでほしいのです」その言葉を聞いて、注文の意味がようやく分かりました。

花束が連れてきた50年前の記憶

私と店長は写真を見ながら、開ききった花を少し不ぞろいに束ね、落ち着いた色の薄紙で包みました。数日後、あの男性が再び店を訪れました。そして見せてくれたのは、奥様が花束を手にしている写真でした。

花束を受け取った奥様は「あのときも、新聞紙だったわね」と笑ったそうです。男性は「私の名前は出てこなかったけれど、花束のことは覚えていました。作ってくれてありがとう」と何度も頭を下げました。最初は少し変わった注文だと思っていた私も、その話を聞いて胸がいっぱいになりました。

花は見た目の美しさだけではなく、ときには遠い日の記憶まで連れてきてくれるのかもしれません。あの花束を作った時間は、今でも忘れられない接客のひとつです。

【体験者:30代・花屋勤務、回答時期:2026年9月】

※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。

EPライター:佐藤 栄祠
大手メーカーの営業を経て、ライターに転身。会社員時代に培った経験と、組織の一員であるからこその“喜怒哀楽”をリアルに伝え、「誰かを癒したい」との思いが執筆の原動力。スピリチュアル関連情報にも精通しており、それらに傾倒する人の思いを描いたエピソードも好評。

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