父が語った「母の味」の記憶
「お前、ママが作った弁当を捨てたのか?」「作ってなんて頼んでない。私はコンビニのほうがいい!」大声で反論する娘に、夫は自分の幼い頃の話を始めました。
実は夫は幼い頃に母親を亡くし、身寄りもなく施設で育っていたのです。「ご飯を作ってくれる人はいたよ。でもパパは、本当のお母さんが作ったご飯の味をもう覚えてないんだ」そして、「周りの友達が羨ましいなら、時々コンビニで買ってもいい。でも、ご飯を作ってくれる人がいることを当たり前だと思ったらいけない」
初めて父の過去を聞いた娘は黙り込み、そのまま逃げるように学校へ向かいました。
友達の言葉で娘が気づいたこと
その日の夕方、娘は帰宅すると私のところへ来て「ママ、ごめんなさい」と謝ってきました。驚いて理由を聞くと、学校で朝の出来事を友達に話したそうです。最初は「ありえないよね!?」と共感してもらうつもりだった娘。
ところが友達から「いつもお弁当作ってくれるなんていいなって思ってた。うちは仕事が忙しくて作ってもらえないんだ。自分で作ってみたけど大変だし、味もなんか違くてさ」と言われたそうです。その言葉で今朝の父親の話も思い出し、自分にはお弁当を作ってくれる人がいるんだと気づいたそうです。
私は「謝ってくれてありがとう。私もあなたの気持ちを聞かずに怒ってごめんね」と伝えました。すると娘は笑って「いいよ。でも……時々コンビニで買いたい気持ちはまだある」と。話し合った結果、週に1回はコンビニで買ってもいいことにしました。
夫と友達の言葉をきっかけに、娘は当たり前を当たり前だと思わない大切さを学びました。私も娘の気持ちを頭ごなしに否定せず、お互いに話し合って譲歩することの大切さを実感したのでした。
【体験者:40代・パート勤務、回答時期:2025年9月】
※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
EPライター:タカダ ミオ
ファッション専攻の後、アパレル接客の道へ。接客指導やメンターも行っていたアパレル時代の経験を、今度は同じように悩む誰かに届けたいとライターに転身。現在は育児と仕事を両立しながら、長年ファッション業界にいた自身のストーリーや、同年代の同業者、仕事と家庭の両立に頑張るママにインタビューしたエピソードを執筆する。
