あと10分早ければ、その場所に
交差点にはパトカーや救急車が何台も集まり、周囲は騒然としていました。近くにいた人の話では、ほんの数分前、信号無視をした車が歩道へ突っ込み、自転車と歩行者を巻き込む事故が起きたそうです。
事故現場を見た瞬間、思わず足が止まりました。そこは、私が毎日青信号で渡っている場所と同じだったからです。
「もしスマートフォンを忘れていなかったら……」その考えが頭をよぎった瞬間、背筋が冷たくなりました。たった10分の違いでした。しかし、その10分が私の運命を大きく変えていたかもしれないのです。
偶然だったのかは今でも分からない
帰宅後、この出来事を母へ話しました。すると母が、「今日はおばあちゃんの命日だったね」と静かに言いました。私は、その日が祖母の命日だったことをすっかり忘れていました。
翌日、祖母の仏壇に手を合わせながら、昨日の出来事を何度も思い返しました。あの日だけ忘れ物をした理由は、今でも説明がつきません。
もちろん、すべてが偶然だったのかもしれません。それでも私は、あの日だけは誰かが「もう少しゆっくり帰りなさい」と、ほんの少しだけ帰る時間を遅らせてくれたような気がしているのです。
【体験者:30代・女性会社員、回答時期:2026年6月】
※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
EPライター:佐藤 栄祠
大手メーカーの営業を経て、ライターに転身。会社員時代に培った経験と、組織の一員であるからこその“喜怒哀楽”をリアルに伝え、「誰かを癒したい」との思いが執筆の原動力。スピリチュアル関連情報にも精通しており、それらに傾倒する人の思いを描いたエピソードも好評。
