キッズスペースで出会った人懐っこい女の子
その本屋さんには、靴を脱いで座り、ゆっくり絵本を読めるキッズスペースがありました。娘に絵本を読んでいると、4歳くらいの女の子が近づいてきて、「なに読んでるの?」と話しかけてきたのです。
とても人懐っこく、物怖じしない様子の女の子。少し離れた場所に、赤ちゃんを抱っこしたお父さんの姿が見えます。お母さんの姿は見当たりませんでした。女の子は娘の横にぴったり座り、私の読む絵本を一緒に聞き始めました。物語の途中でも思いついたことを話しかけてきます。
そして今度は「これ読んで」と、自分で選んだ絵本を持ってきました。娘も楽しそうにしていたので、「まあ一緒に読めるならいいか」と思い、何冊か読み聞かせをしていました。
ニヤニヤ笑うお父さんの違和感
ふと顔を上げると、お父さんがこちらを見てニヤニヤしながら言いました。「ムカつくでしょ〜、生意気で」最初は冗談かと思い、「そんなことないですよ〜ハキハキしていてしっかりものですね」とやんわり返しました。
けれど、お父さんは何度も「生意気」「ムカつく」と同じ事を繰り返し言ってくるので、だんだん違和感が募ってきました。自分の娘を“生意気”と他人に言いながら、注意するわけでもなく、ただ見ているだけ。「何この人……?」と、心の中で警戒心が芽生え始めました。
消えた父親、残された娘
何冊目かの絵本を読んでいたときです。突然、そのお父さんが走ってどこかへ行ってしまいました。トイレかな、すぐ戻るだろう。そう思っていましたが、10分、15分、20分……戻ってきません。
不安になり、別のフロアにいた夫に様子を見てもらうと、戻ってきた夫が驚いた顔で言いました。「さっきのお父さん、雑誌コーナーで立ち読みしてるよ!」まさか、見知らぬ私に子どもを預けて、自分は好きなことをしに行った? 呆れと怒りが一気に込み上げました。
館内放送、そして小さな「すみません」
「まだ遊んでほしい」と言う女の子の手を引き、私は店員さんのところへ行きました。「この子のお父さん、さっきまでいたのですが戻ってきません。キッズスペースに置いたままどこかへ行ってしまいました」店員さんはすぐに対応してくれて、館内放送で呼び出しをしました。
しばらくして、お父さんは慌てて走って戻ってきました。店員さんから「目を離さないでください!」ときつく注意を受けています。私も続けてはっきり伝えました。「自分のお子さんは、自分で見てください」さっきまでニヤニヤしながら娘を“生意気”と言っていたその人は、小さな声で「すみませんでした……」とだけ言いました。
もし私が悪意のある人間だったらどうなっていたでしょう。あまりにも無責任で、想像力の欠けた行動に、心から呆れた出来事でした。
【体験者:20代・女性販売員、回答時期:2016年9月】
※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
EPライター:Mio.T
ファッション専攻の後、アパレル接客の道へ。接客指導やメンターも行っていたアパレル時代の経験を、今度は同じように悩む誰かに届けたいとライターに転身。現在は育児と仕事を両立しながら、長年ファッション業界にいた自身のストーリーや、同年代の同業者、仕事と家庭の両立に頑張るママにインタビューしたエピソードを執筆する。

