憧れの「初の女性部長」
私がホテルで働いていた頃、直属の上司として吉田さん(仮名)という女性部長が着任しました。社内でも優秀と評判の「女性初の部長」。男性管理職と肩を並べて颯爽と働く姿は格好良く、「いつか吉田部長のようになりたい」と、私は心から憧れていました。
ところが、彼女の下で働くうちに職場の空気が少しずつ変わり始めました。吉田部長は部下のミスに対して非常に厳しく、常に張り詰めたような緊張感が漂うようになったのです。
それだけならまだしも、彼女は上司の顔色を極端に伺う「イエスマン」でした。上からの指示には絶対服従で、現場を混乱させる朝令暮改も日常茶飯事。部署の雰囲気は次第にギスギスしていきました。
支配人の前で沈黙を貫いた上司
ある時、吉田部長の指示で、先輩社員が顧客向けのノベルティグッズを製作しました。ところが、グッズが納品された後になって、発注先が当ホテルで大規模イベントを予定している企業のライバル会社だったことが判明したのです。激怒した支配人に、吉田部長と先輩が呼び出されました。
先輩から聞いた話によると、部長は支配人の前で自分から何も話す気配がなく、仕方なく先輩が謝罪。支配人は、「大規模イベントの件を知らなかったのか?」と、先輩を激しく叱責したのです。実は、その会社への発注を指示したのは吉田部長本人でした。
しかし、彼女は素知らぬ顔で沈黙を貫き、最後に一言、「私の監督不行き届きで申し訳ありませんでした」と述べただけ。自らの指示だったとは触れず、すべての責任を先輩一人に背負わせたのでした。
人事部の調査で下された審判
信頼していた上司の裏切りにショックを受けた先輩は、それから会社に来られなくなってしまいました。事態を重くみた人事部が先輩に連絡を取り、詳細なヒアリングを行ったことで、ようやく事の経緯が明るみに出たのです。
吉田部長が自分の保身のために部下を盾にし虚偽の報告をしていたことは、社内で厳しく追及されました。彼女の評価は地に落ち、降格処分が下されることになったのです。
失われた信頼と再出発への安堵
その後、先輩は無事に職場復帰を果たしました。新しい上司の下で、以前のように元気に働く姿を見て、私は心から安堵しました。
人を踏みつけにして出世をしても、決して長続きはしない。私の憧れは無残にも消えてしまいましたが、仕事をする上で何が本当に大切なのかを目の当たりにした出来事でした。
【体験者:60代・女性会社員、回答時期:2025年11月】
※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
EPライター:Sachiko.G
コールセンターやホテル、秘書、専門学校講師を歴任。いずれも多くの人と関わる仕事で、その際に出会った人や出来事を起点にライター活動をスタート。現在は働く人へのリサーチをメインフィールドに、働き方に関するコラムを執筆。

