母子二人の帰省
夏休みの帰省のため、私は 5歳の息子を連れて空港へ向かう電車に乗っていました。夫は仕事で後から合流するため、慣れない母子二人での移動です。できれば通勤時間帯は避けたかったのですが、目的地へのフライトが1日2便しかなく、やむを得ず満員電車に乗ることに……。
社内は通勤客で混み合っており、私たちはドア付近に立っていました。息子は私の手をしっかり握り、窓の外を眺めています。目的地まであともう少し、そう思った矢先に電車が激しく急ブレーキをかけたのです。
泣き止まない息子
その拍子に、隣にいた50代くらいの女性がよろけて息子の上に倒れ込み、女性の硬い革靴のかかとで息子の小さな足を思い切り踏みつけたのです。女性はすぐに「すみません」と言いましたが、息子は顔を真っ赤にして泣き出してしまいました。なんとか泣き止ませようとなだめても、いっこうに泣き止みません。
あまりにも痛がる様子に、もしかして骨が折れた? と心配になり、私は息子の靴を脱がせて見ることに。特に骨折はなさそうでしたが、踏まれたところが赤くなっていました。
豹変した加害者の「逆ギレ」
その様子を見ていた女性が、急に苛立った顔でこう言い放ちました。「謝ったじゃない! いつまで泣かせているのよ。あてつけがましいわね!」
痛みに震える子どもに対するまさかの逆ギレに、私は怒りと衝撃で声も出ませんでした。確かに急ブレーキで倒れたことは女性のせいではありませんが、5歳の子どもが泣くのも仕方のないこと。それを「あてつけがましい」と言われるとは思いもしませんでした。
周囲の乗客たちも、女性の大きな声に驚いた様子でこちらを見ています。車内には気まずい空気が流れました。
救世主の介入
そのとき、近くの席に座っていた50代くらいのスーツ姿の男性が立ちあがり、「……大丈夫? 痛かったよね。ここに座りなさい」 と優しく声をかけ、息子に席を譲り頭をなでてくれたのです。息子の涙もようやく止まり、私もホッと一息。居心地が悪くなったのか、女性はうつむき加減で逃げるように次の駅で降りていきました。
その後はトラブルもなく、無事に実家に到着。幸い息子の足も大事に至らなかったものの、忘れられない夏休みの出来事となりました。
【体験者:30代・女性会社員、回答時期:2025年12月】
※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
EPライター:Sachiko.G
コールセンターやホテル、秘書、専門学校講師を歴任。いずれも多くの人と関わる仕事で、その際に出会った人や出来事を起点にライター活動をスタート。現在は働く人へのリサーチをメインフィールドに、働き方に関するコラムを執筆。

