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病院での夜勤は、昼間とはまったく違う空気が流れています。静まり返った廊下、控えめな照明、聞こえるのは医療機器の音だけ。そんな環境だからこそ、少しの異変でも強く印象に残るものです。これは、私の友人えりちゃん(仮名)が、独身時代に体験した、ちょっぴり背筋がゾクっとする出来事です。

いつも通りの夜勤に鳴ったナースコール

私は看護師として働いています。これは、まだ独身だった頃、夜勤中に起きた出来事です。その日も、ナースステーションで書類作業をしていました。すると、ほとんど身動きが取れない寝たきりのおばあさんからナースコールが鳴りました。

「間違えて押してしまったのかな」「寝返りの拍子に反応したのかも」みんなでそう話しながら、同僚の岩田さん(仮名)が様子を見に行ってくれることになりました。

「いない」の一言で広がった不安

しばらくして、廊下から慌ただしい足音が聞こえてきました。振り返ると、岩田さんが顔色を変えて戻ってきたのです。「どうしたの!?」と聞くと、「ナースコールがあった〇〇さんがいないの! ベッドの下も部屋中も探したけど見当たらない……」その言葉に、ナースステーションが一気にざわつきました。

寝たきりで、ほとんど自力で動けないはずのおばあさん。「どうして?」「誰かに付き添われずに動ける状態じゃないのに」「もしかして転倒した? それとも何かトラブルに……?」さまざまな不安が一瞬で頭をよぎり、詰所にいた看護師全員が「探しに行こう」と立ち上がりました。

聞こえた声と、信じられない光景

そのとき、か細い声で「すみません……」と聞こえてきました。「今の声、誰?」全員が辺りを見回しましたが、姿は見えません。もう一度、「すみません……」と声がします。私は恐る恐る、ナースステーションのカウンターの下を覗き込みました。

するとそこには、寝たきりのはずのおばあさんが、正座をしてこちらを見上げていたのです。あまりに予想外の光景に、私はびっくりして固まってしまいました。周囲の看護師たちも、「どうしてここに?」「どうやって?」と状況が飲み込めず、戸惑いの声が上がっていました。

ベテラン看護師の対応と、学んだこと

その空気を変えたのは、ベテランの看護師でした。落ち着いた様子でおばあさんのそばへ行き、優しく声をかけます。「〇〇さん、どうしましたか?」するとおばあさんは、申し訳なさそうに「お家に帰ろうと思ったんだけど、場所がわからなくなって……」と話されました。

ベテラン看護師は微笑みながら「大丈夫ですよ、こちらです。お部屋に戻りましょう」と声をかけ、私たちもハッと我に返って急いで車椅子を用意し、おばあさんを部屋までお送りしました。

戻ってきたあと、私が「驚きました……」と言うと、ベテラン看護師は「時々あるのよ。普段は動けなくても、何かの拍子に力が出て、匍匐前進で移動される方」と淡々と教えてくれました。寝たきりのおばあさんがナースステーションまで来ていたことにも驚きましたが、それ以上に、どんな状況でも冷静に対応するベテラン看護師の姿に、「すごい……」と心から思いました。

医療現場では、想像もしないことが起こる。落ち着いた判断と経験の大切さを強く感じた夜になりました。

【体験者:20代・看護師、回答時期:2010年9月】

※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。

EPライター:Mio.T
ファッション専攻の後、アパレル接客の道へ。接客指導やメンターも行っていたアパレル時代の経験を、今度は同じように悩む誰かに届けたいとライターに転身。現在は育児と仕事を両立しながら、長年ファッション業界にいた自身のストーリーや、同年代の同業者、仕事と家庭の両立に頑張るママにインタビューしたエピソードを執筆する。

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