リビングで仕事をしていたUちゃん
私は小さな子どもを育てながら、在宅で働いていました。賃貸のアパートには仕事専用の部屋がなく、いつもリビングでWeb会議をしていました。
背後には子どものおもちゃが並んでいますが、保育園に預けている間は家には誰もいません。会議のときは、散らかったおもちゃを隠すために背景にエフェクトをかけるのが習慣になっていました。
突然切れたエフェクト
その日も、いつも通りリビングでWeb会議に参加していました。すると、参加者の一人が申し訳なさそうに声をかけました。「Uさん、あの……背景のエフェクトが切れちゃってます」慌てて画面を見ると、確かにエフェクトが消え、背後のおもちゃスペースが映し出されていました。
「わ〜! すみません! 散らかってて恥ずかしい〜」そう笑って誤魔化すと、別の参加者が言いました。「お子さん、今日はおうちで遊んでるんですね! いつもお仕事と育児、お疲れ様です!」
いないはずの誰か
私は一瞬言葉に詰まり、首をかしげました。「え? 子供はいつも保育園ですよ。私、ひとりなんです」すると、会議の参加者がざわつきました。
「え、でも……お子さんが後ろで手を振ってましたよね?」「私も見ました……小さな子が」会議に参加していた数人が同じように口にしたのです。冗談ではなく、みんな真顔でした。私は笑いながら「やめてくださいよ〜」と返したものの、心の中は冷えていくばかり。
鳴り出したおもちゃ
そのとき……背後の棚に置いてあったおもちゃが、突然音を立て動き始めたのです。電源は切ってあったはず。子供もしばらく遊んでいなかったおもちゃです。誰もいないリビングで、ランプが点滅し、メロディーが流れ出しました。「キャーッ!!」会議に参加していた数人が悲鳴を上げ、私はパソコンを抱えて玄関を飛び出しました。
後日、新居の完成に伴い不動産会社に退去の連絡をした際、担当者がこんなことを教えてくれました。「そういえばその部屋……前の住人さんも『子どもの声が聞こえる』って言ってたみたいです」
あの日、画面の向こうで誰が手を振っていたのか。あまりにも恐ろしい体験で、二度と思い出したくありません……。
【体験者:30代・女性会社員、回答時期:2020年9月】
※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
EPライター:Mio.T
ファッション専攻の後、アパレル接客の道へ。接客指導やメンターも行っていたアパレル時代の経験を、今度は同じように悩む誰かに届けたいとライターに転身。現在は育児と仕事を両立しながら、長年ファッション業界にいた自身のストーリーや、同年代の同業者、仕事と家庭の両立に頑張るママにインタビューしたエピソードを執筆する。

