夜間コールセンターの頼れる存在
私が勤務していた夜間のコールセンターには、緊急性の高い相談に加え、酔った方からの要領を得ない問い合わせや、時にはいたずら電話まで、実にさまざまな入電があります。
そんな中、頼りになるのが、横山さん(仮名)という60代の男性スタッフでした。大手企業を退職後に派遣社員として働き始めて2年。豊富な社会人経験と幅広い知識から、どんなお客様とも臆することなく会話ができる貴重な戦力で、横山さんを信頼し、わざわざ夜間に電話をかけてくるお客様もいるほどでした。
一方で、その自信に満ちた物言いが「上から目線」と受け取られることもあり、時折クレームに発展。私がフォローにまわることも少なくありませんでした。
一言が招いた、深夜の大炎上
ある晩、「昼間のオペレーターの対応が悪かった」とのクレームが入り、対応したのが横山さんでした。私はモニターをしながら、「いつでも交代します」とメッセージを送っていました。
お客様の話を真摯に聞いていた横山さんが、突然「お言葉を返すようですが、お客様の言い分には少々誤解があるように感じます」と発言。お客様の怒りが爆発し、「お言葉を返すとは何事だ!」と激しい怒声が響きました。
横山さんはその後も「私は事実を申し上げたまでです」と冷静に繰り返し、事態はさらに悪化。私はすぐに通話を引き継ぎ、その後2時間謝罪し続けることに。最終的に詫び状を送ることでご寛容いただきました。
お言葉を返した理由
対応後、横山さんに「あの一言の意図は?」と尋ねると、こう答えました。「昼間のスタッフを一方的に責めていましたが、話を聞く限り、お客様にも誤解があるように感じました。仲間の名誉のためにもきちんと訂正しておきたかったのです」
その意外なほど真っ直ぐな言葉に、私は一瞬言葉を失い、迷いながらもこう伝えました。「その気持ちはありがたいですが、お怒りが収まらないうちは逆効果です。まず受け止めてから、着地点を探すのがクレーム対応の基本です」
横山さんはしばらく考えた後、「なるほど、タイミングが悪かったのですね」と頭を下げてくれました。
「正しさ」を届けるために必要なこと
その後、横山さんはまずお客様の話を丁寧に聞くようになり、大きなトラブルは起きなくなりました。私もまた、お客様の気持ちに寄り添いながら、必要なことはきちんと伝えるという姿勢を以前よりも大切にするようになったのです。
「正しいこと」と「適切なタイミング」で伝えることの大切さを、横山さんとのやり取りを通して実感しました。
【体験者:40代・女性会社員、回答時期:2022年6月】
※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
EPライター:Sachiko.G
コールセンターやホテル、秘書、専門学校講師を歴任。いずれも多くの人と関わる仕事で、その際に出会った人や出来事を起点にライター活動をスタート。現在は働く人へのリサーチをメインフィールドに、働き方に関するコラムを執筆。

