文句ばかりのキャリア採用社員
私が勤めていた英会話学校は、まだ設立間もない会社で、業務の多くが手探り状態でした。総務部門も例外ではなく、マニュアルのない業務が山積みという状況でした。
そんな中、木田さん(仮名)がキャリア採用で私たちの部署に加わりました。落ち着いた雰囲気の女性で、前職では大手企業に勤めていたとのこと。彼女の活躍を皆が期待していました。
しかし業務が始まると、「マニュアルがないなんて信じられない」「教え方が曖昧すぎる」と、口を開けば不満ばかり。前職を引き合いに出しては、この会社の遅れを力説する日々が続きました。
一番困ったのは、誰かに話しかけては、その人の手を止めてしまうこと。次第に周囲には、「文句を言う前に自分の仕事を進めてほしい」という空気が広がっていきました。結局、木田さんは3ヶ月で退職。上司も引き留めることはありませんでした。
後任は静かなる仕事人
木田さんの後任として入ったのが、佐々木さん(仮名)でした。初日から私語一つなく、黙々と仕事をこなす姿に、こちらが話しかけるのもためらうほど。
そして驚いたことに、入社からわずか2週間足らずで、彼女は木田さんから引き継いだ住宅保険の更新業務を整理し、社内向けのマニュアルやフローチャートを作成してしまいました。資料は簡潔でわかりやすく、誰が見ても迷わず作業できる状態に仕上がっていたのです。
無言の理由が明らかに
その頃から佐々木さんは、それまでの無言の日々が嘘のように、自然な笑顔で同僚たちと言葉を交わすようになったのです。
ある日、私が「以前は今みたいに話してくれなかったよね」と尋ねると、「仕事もできないうちから私語なんてできないでしょ」と笑って答えてくれました。その言葉は、私の心に深く響きました。
彼女はその後も、マニュアルの整備や業務の仕組みづくりに尽力し、総務部に欠かせない存在となっていきました。
文句より、まず動く
仕事への取り組み方は人それぞれですが、木田さんと佐々木さんという、対照的な二人の同僚を目の当たりにしたことは、私にとって大きな学びの機会となりました。
まず自身で何ができるかを考え、手を動かすこと。そして、その成果を通じて周囲に貢献していくこと。佐々木さんが教えてくれたのは、まさにプロフェッショナルとしての真摯な姿勢でした。この経験は、私自身の仕事への向き合い方を、改めて問い直すきっかけとなりました。
【体験者:60代・女性会社員、回答時期:2025年10月】
※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
EPライター:Sachiko.G
コールセンターやホテル、秘書、専門学校講師を歴任。いずれも多くの人と関わる仕事で、その際に出会った人や出来事を起点にライター活動をスタート。現在は働く人へのリサーチをメインフィールドに、働き方に関するコラムを執筆。

