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私が会計事務所に勤めていた時のこと。そこの事務所の所長は、セレブ志向の強い方でした。今回は、ある贈り物がきっかけに浮き彫りになった、“贈り物に対する考え方”についてのエピソードをご紹介します。

合理主義者の所長と気の重い役目

私が働いていた公認会計士事務所の所長は、自他共に認めるセレブ志向で、高級腕時計や高級外車に囲まれた生活を送りながら、一方で無駄を一切許さない徹底した合理主義者でもありました。

事務所に届くお中元やお歳暮も、所長の好みに合わなければ「別の実用的なものに交換」というのが常。その役目は決まって私たち事務員に回ってくるため、正直なところ気が進まない仕事の一つでした。

カシミヤのひざ掛け

ある日、相続の相談に通われていたご婦人がお礼にと、有名百貨店の包装紙に包まれた上質なカシミヤのひざ掛けを置いていかれました。特にブランドのタグはついていないものの、肌触りの良さそうな素敵な品でした。

ところが所長は一目見ただけで、「ひざ掛けはもう何枚もあるから、この百貨店でほかの商品に交換してきてくれ」と指示。私は内心「またですか……」と思いつつ、包み直した箱を抱えてデパートへ向かったのです。

箱と包装紙が明かした意外な真実

お客様相談カウンターで事情を説明すると、担当の男性スタッフは包装紙を一目見て「これは当店の品物ではありませんので、交換はできません」ときっぱり告げました。
念のため詳細を聞くと、「箱は確かに当店のものですが、包装紙は違います。そして、こちらのお品は当店では扱っておりません」と断言されてしまいました。

どうやら品物はそのデパート以外のショップで購入され、それを手持ちのデパートの箱で梱包、同じデパート風の包装紙で包んだ可能性が高いとのこと。有名デパートに酷似した包装紙が流通しているという事実に、私は驚きました。

それぞれの主義

仕方なく品物を事務所に持ち帰り所長に報告したところ、「そんなことがあるのか」と所長も驚いていました。

贈り物の価値は本来「どこで買ったか」ではなく、「どんな気持ちが込められているか」にあると私は考えています。
贈り主にもそうせざるを得ない事情があったのかもしれませんが、わざわざ高級デパートの品に見せかけた梱包をする必要はなかったのでは、とも思います。

そして、やはり所長の『気に入らない贈り物は全て交換する』という合理主義にも共感はできませんでした。

しかし、贈る側も受け取る側もそれぞれの見栄や理屈で動いてしまうのかもしれない──。
人によって贈り物に対する考え方が異なるのだということを、この出来事が改めて教えてくれました。

【体験者:60代・会社員、回答時期:2025年9月】

※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。

EPライター:Sachiko.G
コールセンターやホテル、秘書、専門学校講師を歴任。いずれも多くの人と関わる仕事で、その際に出会った人や出来事を起点にライター活動をスタート。現在は働く人へのリサーチをメインフィールドに、働き方に関するコラムを執筆。

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