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夜間のコールセンターでは、ときに眠気を吹き飛ばすような珍事件が起こります。今回は、筆者の知人・香織(仮名)がスーパーバイザーを務めていた時の出来事をご紹介します。ある夜、頻繁にクレームを入れるお客様との通話が2時間以上に及び……。

頼れる新人スタッフ

太田さん(仮名)は、私が勤務する24時間コールセンターで夜勤オペレーターとして働く50代の男性派遣社員です。オペレーター業務は未経験でしたが、勤務開始から約4ヶ月、その実直で丁寧な対応でお客様からの評判も上々でした。

“常連”からの長電話

ある日の夜10時過ぎ、太田さんが受けた電話の相手は、夜勤スタッフなら誰もが知る“常連”のA様でした。

「今日、昼間に電話したんだけど、ずいぶん感じが悪かったわね。一体どんな教育をしているの?」

受話器を取った瞬間にわかる、毎度おなじみのクレームです。太田さんは慌てることなく、いつもの落ち着いた声でこう答えました。

「大変申し訳ございません。もしよろしければ、詳しくお話をお聞かせいただけますでしょうか?」

A様は、日中対応したスタッフへの苦言から、センター全体への不満まで、次から次へと話し続けます。私からの指示で、太田さんが電話を上席に転送すると伝えても、「あなたが責任を持って聞きなさい」と言い張り、通話は一向に終わる気配がありません。

太田さんのまさかの一言

「私はひとり暮らしだから、夜は話し相手がいないのよ」

A様の長電話の背景が少し見えてきた頃には、すでに深夜0時を回っていました。私が「そろそろ切ってください」と指示を出そうとしたその瞬間――太田さんが唐突に口を開きました。

「……お話を伺い始めてから、2時間になります。私、お手洗いに行ってもよろしいでしょうか?」

受話器の向こうが一瞬、しんと静まり返ります。

「いいわよ。そうね、もう切るわ。ありがとう」

そしてA様は、あっさり電話を切ったのでした。

そして伝説に……

状況を見守っていたスタッフたちは、「えっ、そんな方法があったの?」と目を丸くし、やがて笑いをこらえきれなくなりました。
太田さんはというと、「では、お手洗いに行かせていただきます」と真顔で席を立っていきました。どうやらこれは“作戦”ではなく、本当に我慢の限界だったようです。

以来、この“お手洗い発言”は、夜勤のちょっとした伝説として今も語り継がれています。

【体験者:40代・会社員、回答時期:2024年9月】

※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。

EPライター:Sachiko.G
コールセンターやホテル、秘書、専門学校講師を歴任。いずれも多くの人と関わる仕事で、その際に出会った人や出来事を起点にライター活動をスタート。現在は働く人へのリサーチをメインフィールドに、働き方に関するコラムを執筆。

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