幸せいっぱいの新郎新婦
結婚式場で勤務していた友人の真理子(仮名)が、今でも忘れることができないという披露宴の話です。
新郎は真面目で誠実そのもの。新婦にもとびきり優しく、式の準備はいつも新婦の希望を最優先に進められていました。新婦が結婚式の準備を心から楽しんでいる様子を見て、真理子も「最高の結婚式にしてあげたい」と思っていました。
当時の披露宴は今より派手な演出が人気でした。その式場で定番の「キャンドルサービス後のくす玉割り」というサービスを提案したところ、新婦は「ぜひやりたい!」と目を輝かせます。しかし新郎は「大げさで嫌だな……」と、珍しく渋い顔を見せました。それでも最終的には新婦の強い希望に押され、くす玉割りもプログラムに加えられたのです。
新郎の不安
新郎はかなりの心配性でした。打ち合わせでは毎回、手配内容の準備状況や本番の段取りを何度も確認。結婚式前日にも「明日の準備は大丈夫ですよね?」と不安げな声で電話をかけてきました。真理子は「準備は万全です。それより今日はゆっくりお休みくださいね」と、新郎を安心させようと明るく答えたのです。
いよいよ当日。結婚式が滞りなく終わり、新郎新婦は少しリラックスした様子で披露宴へと臨みます。会場は祝福の空気に包まれ、カメラのフラッシュが温かな光を放っていました。
披露宴の最高潮でくす玉が割れ……
お色直し後のキャンドルサービスで各テーブルを回る二人は、まさに幸せの絶頂でした。
高砂席に戻り、満面の笑みでキャンドルに点火。炎が大きなハートを象ったところで、新郎新婦がくす玉のひもを引き、ぱん! と乾いた音とともに紙吹雪が舞い踊りました。中から出てきた垂れ幕に記されていたのは……
なんと、別の新郎新婦の名前だったのです。
会場のざわめきとカメラのフラッシュが止むと同時に、新婦が小さな悲鳴をあげて泣き出し、新郎は茫然と立ち尽くしていました。
忘れられない瞬間
後日、外注先のミスだったことが判明。式場は真摯に謝罪し、費用の一部を返金することでなんとかご寛容いただいたそうです。
「結婚式は一度きり。その瞬間を任される責任の重さを痛感した」真理子はそう振り返ります。念には念を入れてチェックすることの大切さを思い知らされた出来事でした。
【体験者:40代・女性会社員、回答時期:2010年4月】
※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
EPライター:Sachiko.G
コールセンターやホテル、秘書、専門学校講師を歴任。いずれも多くの人と関わる仕事で、その際に出会った人や出来事を起点にライター活動をスタート。現在は働く人へのリサーチをメインフィールドに、働き方に関するコラムを執筆。