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公認会計士事務所で働いていた時、妙に印象に残っているお客様がいらっしゃいました。とある企業の部長さんは、来所時に必ず部下の女性を連れていらっしゃるのです。時々ふと思い出し、今頃どうされているのだろうと気になってしまうお二人のお話です。

2週間に一度のお客様

私が公認会計士事務所に勤めていた頃、ある取引先企業の部長が2週間に1度来所されていました。

その部長は電話やメールで済むような用件でも、必ず部下の女性を同伴して二人でいらっしゃるのです。特に用事がなく、世間話をして帰っていかれることもありました。あまり頻繁にいらっしゃるので、「あの会社、そんなに暇なのかしらね?」と、私たち事務員の間で話題になっていたほどです。

定番の手土産

部長がいつも持ってきてくださる有名店のお菓子は、私たち事務員の楽しみのひとつでした。時には、その会社から電車で30分以上かかる店の商品もあり、わざわざ遠回りして買ってきてくださったのかと、最初は皆で感激していました。

ところがある日、女性社員が「ここのシュークリームが評判で、さっきお店でいただいたんです。本当に美味しかったのでお土産にと思って」と箱を差し出したとき、「仕事中にカフェ?」と驚いたのと同時に、もしかしてお土産はついでだったのかと、なんとなく腑に落ちたのです。

ただ、ふたりには後ろめたさなど微塵も感じられず、カフェの様子を楽し気に話していました。

突然の問い合わせ

ある日の午後。部長の会社から二人がそちらに伺っていないかと、問い合わせの電話が入りました。

来所の予定がないことを伝えると、「訪問する予定になっているんですが……もし、この後まいりましたら、至急会社に連絡するよう伝えてください」と困っている様子でしたが、私たちは事情がわからず顔を見合わせるばかり。もちろんその後も二人が姿を見せることはありませんでした。

謎を残した結末

しばらくして後任の部長が挨拶に訪れ、前の部長は地方へ転勤となったことを知らされました。いつも同席していた女性社員について尋ねると、すでに退職したとのこと。

唐突に二人が姿を消したことで、今までの出来事はいっそう謎めいて感じられました。真相はわからないままですが、何かしら特別な事情があったのだろう──そう思わせる独特の余韻だけが、今も記憶の中に残っています。

【体験者:60代・女性会社員、回答時期:2025年8月】

※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。

EPライター:Sachiko.G
コールセンターやホテル、秘書、専門学校講師を歴任。いずれも多くの人と関わる仕事で、その際に出会った人や出来事を起点にライター活動をスタート。現在は働く人へのリサーチをメインフィールドに、働き方に関するコラムを執筆。

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