静かな午後に現れた“気になるお客様”
ドラッグストアで働く友人、Hちゃんから聞いたお話です。その日、店内は比較的落ち着いた平日の午後。お客様もまばらで、スタッフもゆったりと商品補充などに取り組んでいました。
そんな中、一人の中年女性が入店してきました。年齢は50代くらい、服装はごく普通でしたが、入店直後からどこか落ち着かない様子が目についたそうです。店内を行ったり来たり、同じ棚の前で立ち止まっては商品を手に取り、すぐ戻す……という動作を何度も繰り返していました。
ちょうどその頃、近隣の店舗で万引き被害が多発していたため、Hちゃんたちスタッフも「もしかして……」と警戒を強めざるをえない状況でした。
「お困りですか?」の声かけにも反応はなく
女性は他のお客様と関わる様子もなく、スタッフが声をかけても無言のまま目をそらします。Hちゃんは「何かを探しているのかも」「でもこの反応は……」と、心配と警戒が入り混じった複雑な気持ちになったそうです。スタッフの間でも「ちょっと注意して見ておこう」という話になり、なるべく失礼のないように距離を保ちつつ、女性の動きを見守ることに。
「お困りですか?」と再度声をかけてみても、やはり返答はなし。言葉が通じていないのか、それとも会話を避けているのか……。対応に困っていたそのとき、女性がバッグから一枚のメモを差し出してきました。
一枚のメモでわかった「本当の理由」
そこには丁寧な文字で「耳が聞こえません。筆談でお願いします」と書かれていました。その瞬間、Hちゃんはすべてを理解しました。会話ができなかったことで行動が不自然に見えてしまっていたこと、周囲と意思疎通がとれず困っていたこと……。
疑う気持ちがなかったとは言い切れず、Hちゃんは自分の思い込みを申し訳なく感じたそうです。すぐにHちゃんはメモを使ってやり取りを始め、希望の商品を丁寧に案内。女性もほっとしたような表情を浮かべ、無事に買い物を終えることができました。お会計後、女性は再び手書きのメモを取り出し、「ありがとうございました。助かりました」と伝えてくれたそうです。
“観察力”だけでは不十分だったと気づかされた日
この一件を通して、Hちゃんは「目に見える情報や行動だけで人を判断してはいけない」と痛感したといいます。万引き被害が増えていた状況で警戒せざるをえないことは、店としては仕方のない面もあったかもしれません。ですが、あくまでも“疑う”より“配慮する”目線を忘れてはいけないと、強く心に刻まれたそうです。
接客業は“観察力”が重要ですが、それと同時に“思いやり”と“柔軟な対応”も求められる仕事です。Hちゃんにとってこの出来事は、自分の接客の在り方を見直す大きなきっかけとなったそうです。
【体験者:30代・販売員、回答時期:2023年9月】
※本記事は、執筆ライターが取材した実話です。ライターがヒアリングした内容となっており、取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
EPライター:Mio.T
ファッション専攻の後、アパレル接客の道へ。接客指導やメンターも行っていたアパレル時代の経験を、今度は同じように悩む誰かに届けたいとライターに転身。現在は育児と仕事を両立しながら、長年ファッション業界にいた自身のストーリーや、同年代の同業者、仕事と家庭の両立に頑張るママにインタビューしたエピソードを執筆する。