スタッフ希望のママ友、Nさん
私がショッピングセンターの服屋で働いていた時の話です。ショッピングセンター内に系列店が3店舗あり、各々の店にヘルプで入るなど、系列店同士でなにかと接点がありました。
ある日のこと。3店舗のうちB店に、地元の主婦界隈で「ボスママ」的な存在として知られる40代のNさんが、「このB店で働きたいんです!」と面接を受けにきたのです。
人事配置が引き起こす火花
Nさん自身がB店の長年の顧客でもあったこともあり対応が難しく、店としても落とすに落とせなかったと聞きます。そんなこともあって採用されたNさんですが、希望していたB店では人手が足りていたため、ガーリーテイスト強めなA店に配属してもらうことに。
しかし、A店でNさんを待ち受けていたのは気の強い20代前半の女性店長。Nさんとの初対面の際にも、店長は「私、年上だろうと関係なく指導していきますから」と宣言したのです。
気の強いNさんもプライドを刺激されたのか、以後何かと二人は衝突するように。
タイムセールで炸裂する、まさかの呼び込み方法!
そんな状況下で迎えた夏のタイムセール。店では新人が店頭で呼び込みをするのが恒例になっていて、今回はNさんの担当に。
たまたまタイムセール初日にA店の前を通りがかった私は、そこでNさんの呼び込み方法を見て驚愕。彼女の呼び込みは、腹の底から低い声を出すストロングスタイルだったのです!
「らっしゃーせーー!!!」
「タイムセール、やってまーーす!!!」
「全品お安くなってまーーす!!!」
およそアパレルのお店とは思われないような力強く、荒々しい呼び込みに、思わずびっくりする私。その声量もさることながら、語尾を伸ばす独特な抑揚、さらには片手にタイムセールの看板、もう片手にはメガホンを持って仁王立ちという堂々たる構え。
その姿はもはやタイムセールの呼び込みではなく、戦場に立つ戦士の貫禄。
謎の水泳部理論と店長の悲鳴
私が思わず「す、すごい声量ですね」と声をかけると、Nさんは得意げに「そうそう、私水泳部だったからね!」と。どうやら、体力づくりの一環で行っていた走り込みの際に身につけた発声方法らしいのです。
その日は店長が不在だったためNさんの「腹発声」を聞くことはなかったようですが、後日ついに店長の耳に入ることに。あまりの迫力に「ちょ、Nさん、やめてください!」と慌てた店長の制止もむなしく、Nさんはお構いなし。声量をさらに上げる勢いで呼び込みを続けたといいます。
話題沸騰、ショッピングモールの噂の的に……
結果、Nさんの呼び込みは「独特すぎてお店の雰囲気に合っていない」とショッピングモール内で話題に。その声はあっという間にママ友ネットワークにまで広がり、「あれ、聞いた?」と噂される始末でした。
Nさんのパワフルな接客は斬新ではあったものの、接客業にはチームワークや雰囲気作りも不可欠。自分のスタイルを貫くばかりではなく、「ブランドコンセプト」や「スタッフとの人間関係」も大切にしないとな……と私も考えさせられる出来事でした。
【体験者:20代・販売員、回答時期:2015年7月】
※本記事は、執筆ライターが取材した実話です。ライターがヒアリングした内容となっており、取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
EPライター:Mio.T
ファッション専攻の後、アパレル接客の道へ。接客指導やメンターも行っていたアパレル時代の経験を、今度は同じように悩む誰かに届けたいとライターに転身。現在は育児と仕事を両立しながら、長年ファッション業界にいた自身のストーリーや、同年代の同業者、仕事と家庭の両立に頑張るママにインタビューしたエピソードを執筆する。