VIP視察ツアー
私が法人営業をしていた頃、アメリカから農機具を輸入している専門商社の視察ツアーを受注しました。 参加者は販売店の社長や役員クラスばかり。移動はすべてビジネスクラス、食事も宿泊先も豪華な文字通りの「VIPツアー」です。私はいつも以上に入念に準備を重ね、出発の日を迎えました。
商社の担当者も2名同行していましたが、重要顧客のおもてなしに失敗は許されない……かたい表情からは、そんな緊張感が漂っていました。
予期せぬトラブルと担当者の「豹変」
しかし、そんな時に限って、予期せぬトラブルが起きるもの。ミネアポリス経由でシカゴに到着した空港で事件が発生しました。 お客様のスーツケースが一つ出て来なかったのです。
「ビジネスクラスなのに、ありえない! 今すぐなんとかしろ!!」担当者の顔色が変わり、私に詰め寄ります。
税関前のエリアは現地ガイドも入れず、動けるのは私だけ。航空会社への確認、待機しているガイドへの連絡、そして担当者への説明と、私はひとりで奔走するしかありませんでした。
容赦ない指示の結末
荷物は乗り継ぎ時の積み忘れと判明。次の便で届けてもらう手配ができました。「2時間後には届きます。ご安心ください」そう説明しましたが、担当者は納得しません。「大至急、代わりの下着と洗面用具を用意してくれ! 」容赦ない指示が飛んできます。
しかし、長旅でお疲れのお客様をこれ以上お待たせするわけにはいきません。私は、まずはホテルへ案内するよう担当者を説得。空港を後にし、ホテルへ向かったのです。結局、お客様が夕食をとっている間に荷物は無事ホテルに届き、あっけなく一件落着となりました。
剣幕の裏事情
その夜、担当者がバツが悪そうに私のところにやってきました。「先ほどはすみませんでした。お客様が不安がっていたので、私も平然としていてはいけないと思って。ああいう時、添乗員さんは大変ですよね」
空港で見せたあの剣幕が嘘のような笑顔に、私は拍子抜けしてしまいました。 そして、ようやく腑に落ちたのです。あの過剰な反応は、私に向けた怒りではなく、お客様に対しての彼らなりの「必死のパフォーマンス」だったのだと。だからといって良いわけではありませんが、なんとなく彼等に親近感も湧いて来ました。
この一件で担当者と私の距離が縮まり、その後は和やかな雰囲気の中でツアーを完遂。視察は大成功に終わり、大きな商談にも繋がったと聞き、ホッとしたのでした。
体験者:60代・女性会社員、回答時期:2026年2月
※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
EPライター:Sachiko.G
コールセンターやホテル、秘書、専門学校講師を歴任。いずれも多くの人と関わる仕事で、その際に出会った人や出来事を起点にライター活動をスタート。現在は働く人へのリサーチをメインフィールドに、働き方に関するコラムを執筆。