懐かしい顔ぶれとの再会
十数年ぶりに、地元の幼馴染グループで集まることになりました。家庭や仕事でなかなか会えなかったけれど、久しぶりに顔を合わせた瞬間、あの頃の空気に戻った気がしました。
運転手はファミリーカーを持っているサヤカ(仮名)。彼女がみんなを乗せて、少し離れた街の居酒屋へ。子育ての話、旦那の愚痴、昔の思い出ーー話題は尽きず、笑いっぱなしの夜でした。
帰り道の寄り道
楽しい時間もあっという間。そろそろ帰ろうかという頃、「このまま帰るのはもったいないよね」と私が言うと、サヤカがふと思いついたように言いました。「近くに公園があるんだ。ちょっと寄っていかない?」私たちは満場一致で賛成。
車を走らせ、街灯に照らされた夜の公園に到着しました。夜風は少し冷たいけれど、楽しい気分のまま、私たちは駐車場のそばで立ち話を始めました。
いわくつきの場所
「そういえばさ」サヤカが何気なく口を開きました。「この公園、ちょっといわくがあるんだって」オカルト好きだった若い頃なら、食いついて聞き返したと思います。
けれど今は全員、母親世代。「やめてよ~」「怖い話は聞きたくない」と笑いながらも、興味半分で話を促しました。
「自殺者が多いらしいの。しかも、あのトイレなんだって」視線の先には、駐車場の端にあるトイレ。薄暗く、少し離れていても不気味に感じます。ちょうど私はトイレに行きたいと思っていたところだったのですが、話を聞いて足が止まりました。
静寂を破った音
その時です。「ガッターン!」突然大きな音が響きました。音の出どころは、まさにトイレの方。全員がそちらを向いた瞬間、多目的トイレの引き戸が、ギィ……と音を立てて開いたのです。
ライトが自動で点灯し、白い光が中を照らしました。けれど、人の姿はどこにもありません。息をのむような静けさ。「もう行こう!」という誰かの声に、私たちはほとんど駆け足で車に戻りました。
今だから思うこと
帰りの車内は、さっきまでの笑い声が嘘のように静かでした。誰も何も言わず、ただ車のエンジン音だけが響きます。それから特に変わったことは起きていません。けれど、あの夜の出来事はいまだに鮮明に覚えています。
若い頃のように怖いもの見たさで夜の公園に立ち寄ることは、もうないでしょう。無邪気な好奇心よりも、今は守るべき家族や日常のほうがずっと大切ですから。
【体験者:40代・女性会社員、回答時期:2025年10月】
※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
EPライター:hiroko.S
4人を育てるママライター。20年以上、接客業に従事。離婚→シングルマザーからの再婚を経験し、ステップファミリーを築く。その経験を生かして、女性の人生の力になりたいと、ライター活動を開始。現在は、同業者や同世代の女性などにインタビューし、リアルな声を日々収集。接客業にまつわる話・結婚離婚、恋愛、スピリチュアルをテーマにコラムを執筆中。