年の近いママ友との出会い
下の子が年中になった頃の話です。当時40歳を超えていた私は、クラスの中でも年上の方。周りは第一子を育てる若いママが多く、特に頑張ってママ友を作ろうとはせず静かに過ごしていました。そして年中になって初めての参観日。突然、『中田さん(仮名)』という女性に声をかけられました。
「うちの子は一人目なんですけど、このクラスって若いママばかりで……ようやく年が近そうな方が来たと思って! よかったら仲良くしてください!」少し気にかかる表現ではありましたが、断る理由もないので「こちらこそよろしくお願いします」と返事。
すると中田さんはいきなり「この後ランチでも行きませんか?」と誘ってきました。初対面で急なお誘いに驚きましたが、参観日の後は子供たちも退園です。家に帰っても特に予定はなかったので、一緒にランチへ行くことにしました。
ランチで語った夫婦問題
子供たちは同性でクラスも同じだったため、ランチに大喜び。私たち自身もいろいろな話をするうちに、自然と打ち解けていきました。ところが話題が夫婦関係に移ると、中田さんの表情が曇り始めます。
「実は夫のことで悩んでいて……夫にもっと家事をしろ、育児をしろって言われるの」「毎日ほぼワンオペで大変だから少しは手伝ってって頼んだら『俺は年収1,000万円稼いでるんだぞ!』って怒られて。パートの私をバカにしてくるのよ」
夫の年収まで口にすることに少し驚きましたが、話を聞く限り、旦那さんはかなり高圧的でモラハラ気味の人のようでした。同じ年頃の子供を育てる身として、家事や育児の大変さはよく分かります。私はすっかり中田さんに同情し、顔も知らない旦那さんにまで腹を立てていました。
公園で知った意外な一面
それからしばらくして、子供を連れて公園へ遊びに行った日のこと。公園には中田さんの子供も来ていましたが、周囲を見渡しても中田さんの姿がありません。どうやら、パパと一緒に遊びに来たようです。子供同士が一緒に遊び始めたこともあり、私は旦那さんに挨拶をしました。想像していた人物像とは違い、とても人当たりのよい方でした。
「この前、妻とランチに行ってくれたんですよね? ありがとうございました」「いえいえ、こちらこそ楽しかったです」「実は、妻がああやってママ友とランチに行くのは初めてだったんです。いつも僕が外に出るように促しても、なかなか出かけなくて……」
中田さん、ランチのときあんなにおしゃべりだったのに、普段は意外とインドア派だったんだ……そんなことを考えながら話を聞いていると、旦那さんが少し言いにくそうに切り出しました。「初対面なのに、こんな話をするのは申し訳ないんですけど……実は、妻と離婚しようと思っているんです」「えっ!?」あまりにも突然の話に、私は思わず大きな声を出してしまいました。
聞いていた話とまるで違う
恐る恐る理由を尋ねると、旦那さんは疲れたような表情で話し始めます。「実は妻、家にいるとほとんど何もしないんです」「何もしない、というと……?」「子供が小さい頃は専業主婦だったんですが、その頃からご飯も作らないし、洗濯も掃除もしなくなってしまって……」中田さんから聞いていた話とはまるで違い、私は驚きました。
旦那さんの話によると『子供が小さいうちは育児が大変なのだろう』と考え、家事ができないことにも目をつぶっていたそうです。しかし、子供が幼稚園に入ってからも状況は変わりませんでした。「日中は一人で家にいるのに、相変わらず何もしないんです。それどころか、子供が寝た後は趣味のオンラインゲームを始めて、通話しながら朝まで遊んでいることもあって……」
さらに、旦那さんは中田さんに月10万円ほどのお小遣いを渡していたといいます。それでも家事をしようとしないため、働きに出るように伝えたところ、今度は「経済的DVだ」「モラハラだ」と責められるようになったそうです。
「それでも週2でパートに行くようになったんですが、週のほとんどは家にいるのは変わらない。なのに『私も働き始めたんだから家事は半分やって』と言うんです。もちろんできたらやりますけど、どうしても妻を見ていると平等でないと思ってしまって……」
私は中田さんの話だけを聞いて、旦那さんを一方的に悪者だと思い込んでいました。しかし、旦那さんの話を聞くと、まったく違う家庭の姿が見えてきたのです。もちろん、どちらの話がすべて正しいのかは分かりません。それでも、目の前で話す旦那さんがひどく疲れていることだけは伝わってきました。
夫婦が迎えた結末は
そして、それから数ヶ月後。中田さん夫婦は本当に離婚することになりました。親権は旦那さんが取ったようです。あれほど夫の愚痴をこぼしていた中田さんが、最終的にどのような気持ちで離婚を決めたのか私には分かりません。ただ、あの日公園で旦那さんから話を聞いていなければ、私は今でも中田さんの言葉だけを信じ、旦那さんを一方的に悪者だと思い続けていたかもしれません。
子育てや夫婦関係の悩みを聞くと、どうしても同性の相手に同情し、似た立場から物事を考えてしまいがちです。しかし、どんな事情にも、表からは見えない一面があるのかもしれません。あの出来事を通して、誰かの話を聞くときには一方の言い分だけですべてを判断しないことが大切なのだと、改めて感じたのでした。
【体験者:30代・女性会社員、回答時期:2023年12月】
※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
EPライター:タカダ ミオ
ファッション専攻の後、アパレル接客の道へ。接客指導やメンターも行っていたアパレル時代の経験を、今度は同じように悩む誰かに届けたいとライターに転身。現在は育児と仕事を両立しながら、長年ファッション業界にいた自身のストーリーや、同年代の同業者、仕事と家庭の両立に頑張るママにインタビューしたエピソードを執筆する。

