「おいしい朝ごはんがあるからね」
朝方、長い陣痛を乗り越え、ようやくわが子を出産しました。無事に生まれてきてくれた安堵と、全身の力を使い果たしたような疲労で、頭はぼんやり。
そんな私に看護師さんが、「おいしい朝ごはんを用意してあるからね。しっかり食べて、ゆっくり休んでね」と優しく声をかけてくれました。
出産を終えて緊張が解けた途端、急に空腹を感じた私。「何が出るのかな」と、ささやかな楽しみを胸に病室へ戻りました。
あるはずの朝食が、どこにもない
ところが、部屋に入ると、テーブルの上にあるはずの朝食が見当たりません。「看護師さんが片づけたのかな?」と周囲を見回しましたが、空になった食器が残っているだけ。先に病室へ戻っていた夫に、嫌な予感を抱きながら尋ねました。
「ねえ、ここにあった私のごはん、知らない?」
信じられないひとこと
すると夫は、きょとんとした顔で「あれ? 俺のかなって思って食べちゃった」夫は悪びれる様子もなく、そう答えました。「えっ、全部……?」
夫は私が命がけで出産している間に用意された朝食を自分のものだと思い、きれいに平らげていたのです。産院の病室に運ばれた食事を、なぜ自分の朝食だと思ったのか。
空腹と疲労、そして夫のあまりに呑気な態度が重なり、私の怒りは一気に爆発しました。「今、命懸けで出産を終えたばかりなんだけど! 私のごはんなんだけど!」
夫はようやく事の重大さに気づいたようでしたが、謝られても怒りは簡単には収まりませんでした。
「産後の恨みは一生」を実感
その後、何を食べたのかはほとんど覚えていません。それなのに、朝食だけがきれいに消えた病室の光景と、夫の「あれ?」という顔は、今でも鮮明に思い出せます。
「産後の恨みは一生」という言葉を聞くたび、真っ先に浮かぶのがこの出来事。夫にとっては単なる勘違いでも、命がけの仕事を終えた直後の私には、到底笑って済ませられることではありませんでした。
出産直後は、心身ともに大きな負担を抱える時期です。何げない行動でも、一番寄り添ってほしいときに向けられた配慮のなさは、長く心に残ってしまうのかもしれません。
【体験者:30代・女性会社員、回答時期:2026年8月】
※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
EPライター:島田歩実
元銀行員として、女性のキャリアやお金にまつわるあれこれを執筆中。アメリカへの留学経験もあり、そこで日本社会を外から観察できたこともライターとしての糧となる。現在はSNSなどを介してユーザーと繋がり、現代女性の声を収集中。

