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早朝のカフェには年齢も職業も様々な方が訪れます。出勤前に立ち寄る人。読書をする人。友人と歓談を楽しむ人。コーヒー豆にこだわる人もいれば、中にはメニューにはない注文をする人もいるようで……今回は、私のお客様の実体験をご紹介します。

早朝のカフェ

私は平日の朝7時からカフェで働いています。早朝の時間帯は、常連のお年寄りのお客様が多く、温度や接客に関する細やかな要望が寄せられることも少なくありません。

「ホットコーヒーが熱すぎる」と叱られることもあれば、「年寄り扱いするな」と怒られることもあり、接客には常に緊張感が伴います。それでも、朝の空気と共に始まる仕事は、私にとって特別な時間です。

不思議なオーダー

ある朝、清潔な身なりをした紳士風の初老の男性が来店。彼の注文は「冷めたホットコーヒーをください」という、聞き慣れないものでした。

私が「アイスコーヒーもございますよ」と伝えると、男性は「変な注文をしてごめんね、なかったら普通のホットコーヒーで」と穏やかに返答。

そこで私は「ぬるめの温度でお淹れしましょうか」と提案しましたが、男性は「ごめんね、ぬるめじゃなくて、冷めたコーヒーが欲しいんだ」と丁寧に言い直します。

注文の背景

私が「お時間いただければ冷めたホットコーヒーをご提供できます」と伝えると、男性は「ではそれをお願いします。手間を取らせてすまないね」と微笑みました。

厨房に事情を説明し、コーヒーを冷ましてから提供すると、男性は「ありがとう。お陰ではかどりそうだよ」と言い、パソコンで作業を始めました。

会計の際、再び「変なオーダーにつきあってくれてありがとう」と言う男性。私は「猫舌なんですか? 私もそうなんです」と尋ねました。すると男性は理由を語ってくれたのです。

以前この店でホットコーヒーを注文した際、執筆中に冷めてしまったものを飲みながら書いた小説が入賞したのだと。それ以来、冷めたホットコーヒーをゲン担ぎとして注文しているとのことでした。

日常に潜む物語

その話を聞いたとき、冷めたホットコーヒーとは逆に、私は胸が温かくなるのを感じました。単なる「変わった注文」だと思っていたものが、男性にとっては大切な習慣であり、創作の力を支えるお守りのような存在だったのです。

何でもないような注文も、ある人にとっては力の源になることがあります。冷めたホットコーヒーは、クレームではなく、日常にひっそりと潜む小さな物語を教えてくれた一杯でした。

【体験者:40代・パート勤務、回答時期:2026年3月】

※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。

EPライター:桜井ひなの
大学卒業後、金融機関に勤務した後は、結婚を機にアメリカに移住。ベビーシッター、ペットシッター、日本語講師、ワックス脱毛サロンなど主に接客領域で多用な仕事を経験。現地での出産・育児を経て現在は三児の母として育児に奮闘しながら、執筆活動を行う。海外での仕事、出産、育児の体験。様々な文化・価値観が交錯する米国での経験を糧に、今を生きる女性へのアドバイスとなる記事を執筆中。日本でもサロンに勤務しており、日々接客する中で情報リサーチ中。

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