職場の義理チョコ文化と、定年間近の困った先輩
私の職場には、毎年バレンタインデーとホワイトデーに「義理チョコ・お返し」を渡し合う、昔ながらの文化が根強く残っていました。その職場に、定年間近の女性社員Aさんがいました。Aさんは毎年、ホワイトデー当日になると必ず有給休暇を取っていました。
理由は「一人ひとりからお返しを受け取って回るのが面倒くさいから」という、なんとも身勝手なもの。そのため翌日出社すると、Aさんのデスクには不在中に置かれた大量のお菓子が山積みになっているのが恒例でした。
更衣室で開催される「お返し品評会」にウンザリ
問題はここからです。出社後、Aさんは女子更衣室に持ち込んだお菓子を並べて、一人で“品評会”を開くのです。「これ、去年と同じお菓子じゃない?」「なんだか安そうね」などと、もらったものに対して文句ばかり。
運悪くそのタイミングで更衣室に入ってしまうと、必ずAさんに捕まり、延々とその品評を聞かされる羽目になります。せっかくお返しを用意してくれた男性陣にも失礼ですし、私は毎年この時期になると「早く終わらないかな」とモヤモヤした気持ちを抱えていました。
「それ、僕が渡したやつ」凍りつく休憩室
ホワイトデーから2か月ほど経ったある日のこと。Aさんが突然、大量のお菓子を入れた紙袋を会社に持ってきました。そして「家じゃ到底食べきれないから、みんなでどうぞ」と、休憩室のテーブルに広げたのです。
並べられたお菓子を見て私はギョッとしました。なんとその中には、職場の男性社員たちがホワイトデーにAさんへ渡したお菓子がそのまま紛れ込んでいたのです。どうやらAさんは、誰から何をもらったのか完全に忘れている様子でした。
嫌な予感は的中するもので、ちょうどそこへ、そのお菓子を渡した男性社員本人がやってきました。テーブルの上に置かれた見覚えのあるパッケージに気づいた彼は、しばらくそれを見つめた後、静かな、しかし冷たい声で言いました。「……Aさん、それ、僕がホワイトデーに渡したやつですよ」
その瞬間、休憩室の空気は一瞬にして凍りつき、Aさんは「え? あ、そうだったかしら?」とひどく戸惑い、顔を引きつらせていました。
「悪気がない」が一番厄介だと気付いた瞬間
おそらく、Aさんに悪気はなかったのだと思います。単に忘れていただけなのでしょう。しかし、人からもらったものを陰で品評した挙句、本人もいる職場で「余り物」としてバラ撒くのは、人としてアウトな行動です。
結局、この一件が大きなトラブルに発展することはなく、職場の義理チョコ文化がなくなることもありませんでした。ただ、あの日以来、更衣室でのAさんの品評会はパタリと静かになりました。
「悪気がない」ということが一番周囲をヒヤヒヤさせ、同時に厄介なのだと痛感した出来事でした。
【体験者:30代・女性会社員、回答時期:2025年3月】
※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
EPライター:北山 奈緒
企業で経理・総務として勤務。育休をきっかけに、女性のライフステージと社会生活のバランスに興味関心を持ち、ライター活動を開始。スポーツ、育児、ライフスタイルが得意テーマ。

