楽しみにしていた取引先からの大きなスイカ
ある夏の日、いつもお世話になっている取引先から、とても大きく立派なスイカの差し入れをいただきました。普段はなかなか自分では買えないような立派なスイカに、社内の空気もパッと明るくなりました。
そのスイカを真っ先に受け取ったのは、職場の先輩である女性社員でした。先輩は笑顔で「明日、切り分けて食べましょうね」と社内に声をかけて回り、給湯室の冷蔵庫に入れてくれました。私たちも「明日の休憩時間が楽しみですね」と、その厚意を嬉しく思っていました。
翌日、配られたスイカの量に違和感……
そして翌日のお昼休み。先輩がスイカを切り分けてみんなに配ってくれたのですが、自分の手元に来たお皿を見て、私は少し違和感を覚えました。「あれ? あんなに大きなスイカだったのに、一人分がこれだけ?」 そう感じるほど、配られたスイカの量がほんの少しだったのです。
もちろん、厚意でいただいたものですし文句を言うつもりは毛頭ありませんでしたが、あの大きなスイカの残りは一体どこにあるのだろうと、心の中で不思議に思っていました。
給湯室で目撃した信じられない光景と、後輩の一言
その後、お茶を淹れようと給湯室へ向かった私は、思わずその場で固まってしまいました。なんと先輩が、わざわざ自宅から持ってきたであろう大きめの保存容器に、残りのスイカをぎっしりと詰め込んでいたのです。
私に見られたことに気づいた先輩は、悪びれる様子もなく「家族もスイカを楽しみにしててね」と笑いました。その時、たまたま給湯室に入ってきた後輩が、その状況を見て呟いたのです。「えっ……差し入れって、みんなで食べるものですよね?」
その一言で、給湯室の空気が一気に凍りつきました。先輩は焦った様子で「え? だって、余ったから……」と苦しい言い訳をしていましたが、実際には皆に配られた量よりも、持ち帰り用の容器に詰められた量の方が明らかに多かったのです。
気まずい雰囲気の中、誰もそれ以上は追及できず、その場はなんとか収まりました。
一年後、再びスイカの差し入れが
それから一年後。今年も同じ取引先から、また立派な大きなスイカをいただきました。私は正直、「またあの先輩がごっそり持って帰るのでは……」と少し身構えていました。
しかし翌日、スイカはきちんと全員分に、平等に切り分けられて配られました。あの大きな保存容器も、給湯室には見当たりません。先輩は「みんなで食べましょうね」と言いながら、最後まで全員にスイカを配りきっていました。
この一年の間、誰かが直接先輩に注意したという話は聞いていません。でも、あの一年前の後輩のまっすぐな一言と、あの場の凍りついた空気は、きっと先輩の心に深く刺さっていたのだと思います。
大きな衝突や直接的な非難がなくても、人はハッとして学ぶことがあるのだなと驚きました。職場の長年の慣習や、一部の人の「これくらい当たり前」という感覚も、ほんの少しの違和感と勇気ある一言で変わることがあるのだと感じた出来事でした。
【体験者:30代・女性会社員、回答時期:2024年8月】
※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
EPライター:北山 奈緒
企業で経理・総務として勤務。育休をきっかけに、女性のライフステージと社会生活のバランスに興味関心を持ち、ライター活動を開始。スポーツ、育児、ライフスタイルが得意テーマ。

