人気メニューのまさかのオーダー
私が働くカフェでは、サンドイッチも人気メニューのひとつ。中でもエビとサーモンのサンドイッチは看板商品。スモークサーモンとクリームチーズとスパイスを混ぜた特製クリームに、エビとアボカド、そしてレタスを挟んだ満足感のある一品です。
ある日、その人気メニューを注文されたお客様が、こうおっしゃいました。「サーモンクリームを抜いてください」。
一瞬、聞き間違いかと思いました。というのも、そのクリームこそがこのサンドイッチのメインであり、ほぼ唯一と言っていいほどの塩味。マヨネーズや別のソースは使っていないため、抜いてしまうと、味付けされていないエビとアボカド、レタスだけになってしまうのです。
「味がなくなりますが……」「大丈夫です」
念のため、私は正直にお伝えしました。「サーモンクリームを抜くと、塩味がなくなってしまいますが……」するとお客様は少し考えたあと、にこやかに「なるほど……でも大丈夫です」と。
アレルギーや苦手な食材かもしれません。そう思い、私たちはそのままサーモンクリーム抜きで作りました。お渡ししたあと、スタッフ同士でつい話してしまいました。「さすがに味しないよね……」「気に入ってもらえるかな?」正直、少し心配でした。
まさかのリピート注文
ところが数日後。そのお客様が再び来店されました。そして、また同じ注文。「サーモンクリーム抜きでお願いします」私はもう一度塩味がないことをお伝えしましたが、やはり笑顔で「大丈夫です」とのこと。
さらに驚いたのは、その後も何度も来店してくださったこと。毎回変わらず「サーモンクリーム抜き」。3回目からは私たちも確認をせず、自然とそのオーダーを受けるようになりました。
正解はお客様の中にある
何度もリピートしてくださるということは、きっとそのお客様にとっては、とても気に入った味だったのでしょう。私たちにとっては「味が足りないのでは?」と思えるサンドイッチも、誰かにとってはちょうどいい。素材そのものの味を楽しみたい方もいるのだと気づかされました。
「人の好みって、本当にそれぞれだね」スタッフみんなで、しみじみと話したのを覚えています。自分の当たり前が、必ずしも誰かの「正解」とは限らない。この出来事は、接客の奥深さと面白さを改めて教えてくれた、忘れられないエピソードです。
【体験者:30代・飲食店勤務、回答時期:2025年12月】
※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
EPライター:Mio.T
ファッション専攻の後、アパレル接客の道へ。接客指導やメンターも行っていたアパレル時代の経験を、今度は同じように悩む誰かに届けたいとライターに転身。現在は育児と仕事を両立しながら、長年ファッション業界にいた自身のストーリーや、同年代の同業者、仕事と家庭の両立に頑張るママにインタビューしたエピソードを執筆する。

