薬局とクリニック、ささやかな恒例行事
私が働く調剤薬局のすぐ横にはクリニックがあり、スタッフ同士は毎朝顔を合わせて挨拶を交わすくらいの距離感でした。
バレンタインデーになると、薬局の女性陣からクリニックのドクター・田中先生(仮名)へチョコレートを渡すのが恒例になっていました。逆にクリニックの女性陣からは、薬局の男性スタッフへチョコレートをいただく。そんなやり取りが、毎年なんとなく続いていたのです。
そしてホワイトデー。田中先生からは、毎年大きな箱に入った高級そうなチョコレートが薬局宛に届きます。それを休憩室に置いて、「ひとり3つはいけるよね?」「どれから食べる?」と、女性スタッフみんなで少しずつ楽しむ時間もまたささやかな恒例でした。
箱の中身が減っている!?
ところが翌日。休憩室に入った瞬間、スタッフのひとりが「あれ?」と声を上げました。大箱にたくさん入っていたはずのチョコレートが、明らかに減っているのです。
「え!? 私まだひとつも食べてないんだけど!」「昨日までは、あんなにあったよね……?」一気にざわつく休憩室。箱の中をのぞき込みながら、みんなで数を数えます。
ついに犯人(?)が判明
しばらくして分かったのが、前日遅くまで残業していた店長・佐々木さん(仮名)の存在です。本人に確認すると、お腹が空いてついパクパク食べてしまったとのこと。
その事情を聞いた女性陣は、「佐々木さん、バレンタインに看護師さんたちからチョコもらってましたよね?」「それに加えて、私たちのホワイトデーまで……」としょんぼり。佐々木さんは「ごめん……みんなそんなに大事にしてると思ってなくて……」と、かなり気まずそうにしていました。
買い直されたチョコと、戻った空気
そしてその日の昼休み。佐々木さんは、なんとチョコレートを買い直して戻ってきました。休憩室に再び箱が置かれると、「よかった〜!」と場の空気も一気に和らぎます。「来年は箱に“女性限定”って書いておこうか?」なんて冗談も飛び、いつものにぎやかな休憩室に戻りました。
今でもホワイトデーが近づくと、佐々木さんの気まずそうな表情と買い直されたチョコレートを思い出して、つい笑ってしまいます。
【体験者:20代・女性会社員、回答時期:2022年3月】
※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
EPライター:辻 ゆき乃
調剤薬局の管理栄養士として5年間勤務。その経験で出会ったお客や身の回りの女性から得たリアルなエピソードの執筆を得意とする。特に女性のライフステージの変化、接客業に従事する人たちの思いを綴るコラムを中心に活動中。

