疲弊する「不夜城」に現れた、完璧すぎる救世主
私の職場はIT系企業の企画部。深夜になっても明かりが消えない、いわゆる「不夜城」でした。深夜残業は日常茶飯事。社員たちは朝から栄養ドリンクを片手に、充血した目でパソコンに向かっています。
そんな戦場のようなチームに、派遣社員の片岡さん(仮名)が加わりました。仕事は早くて正確。周囲への気配りも完璧で、誰かが困っていればさっと手を差し伸べる。まさに救世主のような存在です。
驚いたのは、その働き方でした。人一倍の業務量をこなしながら、毎日18時ちょうどになると、「お疲れ様でした」と笑顔で退社していきます。疲れ切った社員たちの中で、彼女だけが、いつも清々しく見えていました。
自信満々のオファーと、突きつけられた「NO」
「彼女を逃す手はない」部長と私は、異例とも言える早さで正社員転換の打診を決めました。きっと片岡さんも喜んでくれるだろう。二人とも、そう信じて疑っていなかったのです。
ところが、派遣会社経由で返ってきた答えは、まさかの「NO」理由は、シンプルでした。「社員の皆さんの働き方を見ていて、とても同じようには働けないと思いました」あまりにも率直な一言に、私は返す言葉が見つかりませんでした。
正社員という肩書きは「命を削る罰ゲーム」
後日、片岡さん本人から詳しい理由を聞く機会がありました。「私にとって仕事は、人生を豊かにするための手段なんです。でも、ここで正社員になることは、人生を会社に差し出すことに見えてしまって」淡々とした口調には、少しのためらいもありませんでした。
片岡さんの目には、正社員という肩書きは「安定」ではなく、「命を削る罰ゲーム」と映っていたのです。片岡さんの言葉が、胸の奥に重く残りました。
本当の勝ち組
さらに驚いたのは、彼女が教えてくれたプライベートの過ごし方でした。仕事を終えると、ピラティスで体を整え、週末は陶芸工房へ。趣味の域を超えた作品は、オンラインショップで販売し、社員の月収くらいの収益があるといいます。
「この生活を守るために、あえて派遣という働き方を選んでいるんです」その言葉を聞いた瞬間、私ははっきりと感じました。今まで疑問に感じていなかった自分の働き方が、おかしいかもしれないということを。
会社に尽くしてヘトヘトになり、週末は寝てばかりの自分と、人生の主導権を握り、理想の生活を手に入れた彼女。本当の意味で「安定」を手にしているのは、果たしてどちらなのか。私は、自分の働き方を根本から見つめ直さずにはいられませんでした。
【体験者:40代・女性会社員、回答時期:2023年10月】
※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
EPライター:Sachiko.G
コールセンターやホテル、秘書、専門学校講師を歴任。いずれも多くの人と関わる仕事で、その際に出会った人や出来事を起点にライター活動をスタート。現在は働く人へのリサーチをメインフィールドに、働き方に関するコラムを執筆。

