不思議な3人組のお客様
その日来店されたのは、60代くらいの女性と、50代くらいの男女の計3名。男性が試着用の服を選んでいる様子でしたが、主導権を握っていたのは明らかに60代の女性でした。「この人はこういう形は似合わないのよ」「その素材はダメ、安っぽく見えるから」そう言いながら、次々と服を持ってきては男性に合わせていきます。
一方、50代くらいの女性は少し離れた場所で腕を組み、無言のままその様子を見ていました。最初は「お母さんとご夫婦かな?」と思いましたが、年齢差を考えると少し違和感があります。3人の関係性が掴めないまま、私は接客を続けていました。
服選びの主役は誰?
接客中、男性はほとんど発言せず、終始60代の女性が話し続けていました。好みやNGポイントまで把握している様子は、長年そばにいる人のようにも見えます。
結果的に多くの商品を購入してくださり、私は「ありがたいお客様だな〜」と思いながらレジへ。そこで世間話の流れから、男性が会社を経営している社長だということを、60代の女性が誇らしげに話し始めました。その口調はかなり親しげで、距離の近さを感じさせるものでした。
「私ね、この人の愛人なの!」
会計中も止まらない60代の女性のおしゃべり。そして突然、「私ね、この人の愛人なの!」一瞬、何を言われたのかわからず、反射的に思わず笑ってしまいました。すると間髪入れずに「それで、後ろのこの人が本妻!」と続けたのです。
流石に冗談だと思った私に向かって、「冗談だと思ってる? 本当よ」と真顔で言われ、言葉を失いました。驚いて男性の方を見ると、なんと彼は小さくうなずいていたのです。
妻の表情が語っていたもの
愛人だという60代の女性は、その後も楽しそうに話し続けます。「珍しい関係でしょ?」「私たち、いつも3人で買い物に行くの」「こんなに本妻と仲良い愛人、他にいないわよね?」その言葉とは裏腹に、私はどうしても気になってしまいました。本妻だという50代の女性の表情です。
彼女は一度も笑うことなく、腕を組んだまま、愛人を無表情で見つめていました。怒っているようでも、悲しんでいるようでもなく、ただ感情が読み取れない表情。その静けさが、逆にゾッとするほど印象に残りました。
本当に「仲良し」なのか、それとも……? 真実はわからないまま、3人は何事もなかったかのように店を後にしました。私は今でも、本妻のあの表情を忘れることができません。
【体験者:30代・女性販売員、回答時期:2018年6月】
※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
EPライター:Mio.T
ファッション専攻の後、アパレル接客の道へ。接客指導やメンターも行っていたアパレル時代の経験を、今度は同じように悩む誰かに届けたいとライターに転身。現在は育児と仕事を両立しながら、長年ファッション業界にいた自身のストーリーや、同年代の同業者、仕事と家庭の両立に頑張るママにインタビューしたエピソードを執筆する。

