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私が働いていたホテルでは、12月が最大の繁忙期。連日の多忙を極める中、オフィスに漂いはじめた「異臭」。 新入社員がデスクにしまい込んだものが引き起こした騒動とは? 今回は、極限の忙しさが生んだ切ないエピソードを紹介します。

繁忙期のオフィスに漂う異臭

私がホテルの商品企画部で働いていた頃、12月は年間で最も忙しい時期でした。ディナーショーやクリスマスイベントが連日開催され、深夜残業が何週間も続く日々。部内の全員が疲労の限界に達していました。

そんなある日のこと、デスク周辺に強烈な匂いが漂いはじめたのです。それは鼻を突くような、明らかに何かが腐敗している異様な匂い。どうやら新入社員の田中さん(仮名)のデスクから発生しているようでした。

引き出しから現れた「忘れ物」

離席していた田中さんが戻ってきた時、私たちは一斉に「何か匂うんだけど……」と尋ねました。すると、彼女は「あ!」と大きな声を出し、慌てて机の奥から一つの紙袋を取り出したのです。その瞬間、異臭は爆発的にオフィス中に拡散。

私たちが鼻を押さえる中、田中さんは半泣きになりながら叫びました。「すっかり忘れていました……! この間、ディナーショーの立ち会いをした時、料理長が『これ食べなさい』ってくれたんです」すぐに持ち帰るつもりが、忙しくて中身も見ずに机にしまい、そのまま存在すらも忘れていたというのです。

恐る恐る中身を確認すると、紙袋の中は見るも無残な姿に変わり果てたローストビーフでした。

新入社員の涙の訴え

「とにかく早く捨ててきて!」という私たちの悲鳴のような大合唱の中、田中さんは半泣きで必死に訴えました。「料理長には、絶対に、絶対に言わないでください!」 田中さんの切実な表情に、私たちは思わず苦笑。

先輩の一人が「残念だったね、きっと最高級のローストビーフだったはずよ」と冗談めかして声をかけると、田中さんの目からは大粒の涙が溢れ出し、「そうですよね……。料理長、『ご家族で食べなさい』ってくれたんです。でも、まさかお肉だとは思わなくて……」

彼女の言葉には、料理長への申し訳なさと、疲労から来る悲壮感が入り交じり、それまで「臭い」と騒いでいた先輩たちも、「大丈夫、料理長には言わないから」と慰めるしかありませんでした。

繁忙期の語り草

結局、ローストビーフはそのまま処分。田中さんも、そして私たちも、「どんなに忙しくても、いただき物はまず中身を確認しよう」という妙な教訓を、強烈な匂いと共に深く胸に刻んだのでした。

12月になると必ず誰かが一度は口にする、繁忙期が引き起こしたあまりにも切ない出来事でした。

【体験者:60代・女性会社員、回答時期:2026年1月】

※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。

EPライター:Sachiko.G 
コールセンターやホテル、秘書、専門学校講師を歴任。いずれも多くの人と関わる仕事で、その際に出会った人や出来事を起点にライター活動をスタート。現在は働く人へのリサーチをメインフィールドに、働き方に関するコラムを執筆。

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