家族であり、心の支えだった存在
私が結婚する前、実家で暮らしていた頃に飼っていたのが「ハナ」という犬でした。ハナはただのペットではなく、家族であり、友達であり、私にとって心の支えそのものでした。
学校で嫌なことがあった日も、仕事で落ち込んだ日も、ハナは何も言わずに隣に座り、そっと寄り添ってくれていました。その温もりに、何度も救われてきたのです。
最期に間に合わなかった後悔
社会人になって数年が経った頃、ハナは高齢となり、癌を患いました。私は仕事を続けながら、できる限りの世話や緩和ケアをしていましたが、ある日ハナは静かに息を引き取りました。そのとき私は仕事で家を空けており、最期に立ち会うことができなかったのです。
悲しみと、「どうしてあのとき一緒にいられなかったのか」という後悔で、私は立ち直れず毎日泣いて過ごしていました。
夜に訪れた、ハナの気配
ある日の夜、ベッドに入り、ハナのことを思いながら横になっていました。どれくらい時間が経ったのか分かりませんが、まどろんでいると、ふと聞き慣れた足音がした気がしたのです。落ち込んだ私のもとへ小走りでやってきて、横にちょんと座ってくれていた、あの頃のハナの足音でした。
次の瞬間、お腹のあたりがじんわりと温かくなりました。ハナがぴったりくっついていたときと同じような、やさしい温もりでした。
「もう泣かなくていいよ」という言葉
すると、「かなみ、かなみ」と声が聞こえました。私は反射的にハナだと感じ、「ハナ、ここにいるよ」と答えました。するとハナは、「かなみ、もう泣かなくていいよ」と言ったのです。
私が「でも、私……最期に間に合わなくて……」と伝えると、「私にとっては、毎日かなみと一緒にいられたことのほうが大切だよ」と、そう返してくれました。そして「もう行くね。だから、もう泣かないで」と。私は「うん、うん、わかったよ。また会おうね」と答え、お腹のあたりをぎゅっと抱きしめました。
ハナがにこっと笑ったように感じたあと、その気配は静かに消えていきました。……不思議な体験ではありましたが、最後にきちんとお別れができたことで、私の心は少しだけ救われました。
ハナを失った悲しみが消えることはありません。それでも、あの夜の出来事は、今も私の心をそっと支えてくれています。
【体験者:30代・女性会社員、回答時期:2024年10月】
※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
EPライター:Mio.T
ファッション専攻の後、アパレル接客の道へ。接客指導やメンターも行っていたアパレル時代の経験を、今度は同じように悩む誰かに届けたいとライターに転身。現在は育児と仕事を両立しながら、長年ファッション業界にいた自身のストーリーや、同年代の同業者、仕事と家庭の両立に頑張るママにインタビューしたエピソードを執筆する。

