歪なピラミッド
私は30歳の時、はじめて派遣社員としてある有名な金融会社の子会社で働くことになりました。初めての働き方に不安もありましたが、スタッフの約4割が派遣社員だと聞き、「ここなら馴染みやすそう」と期待していたのです。
配属された部署には約40名のスタッフがいましたが、部長やリーダー 5名は親会社からの出向社員、残りが子会社直雇用のプロパー社員と派遣社員が半々という構成。現場を仕切るリーダーたちは、入社2〜3年目の若手ばかり。彼女たちは入社後すぐに出向社員として子会社に着任し、1年後にはリーダーになるのだと聞きました。
存在を否定する「沈黙」
勤務開始早々に私は強い違和感を覚えました。まず驚いたのはリーダーたちの振る舞いです。彼らは出向社員やプロパー社員とは笑顔で談笑しますが、私たち派遣社員とは業務以外の会話を一切しません。 私がすれ違いざまに「おはようございます」と挨拶をしても、彼らは私をチラッと見るだけで無言で通り過ぎていくのです。
どのリーダーに挨拶しても返事はゼロ。先輩の派遣社員に相談すると、「ここのカーストあるあるだから、気にしないほうがいいよ」 と諦め顔で言われてしまいました。
職場環境アンケート
無視されるだけではありません。PCの操作がわからず隣席の派遣スタッフに質問すると、リーダーが飛んできて「派遣同士で話さないで!」 と一喝。かといってリーダーに質問すれば、「研修で教えたよね」 と嫌味を言われます。
あまりに風通しが悪い環境に、ここで長く働くのは無理だと感じ始めていた頃、全社規模で「職場環境に関するアンケート」が実施されました。私は、リーダーたちによる日々の挨拶無視や受けた不当な扱いを、なるべく淡々と事実のみを記入したのです。
崩れ去った特権意識
リーダーたちに対する意見をあげたのは、一人、二人ではありませんでした。派遣社員ほぼ全員からあがった同様の意見は、組織的な重大事案として親会社の人事部を動かしたのです。
その後の対応は、見事なまでに素早いものでした。部長を含めた出向社員たちは総入れ替え。組織の和を乱し、コンプライアンスを軽視した代償は、彼らのキャリアにとって大きな痛手となったはずです。
新体制では、プロパー社員も役職に就き、「立場に関わらず相手に敬意を払うこと」が徹底されました。当たり前に挨拶が響く職場に生まれ変わり、私たち派遣社員も気持ちよく働くことができるようになったのです。
【体験者:30代・女性会社員、回答時期:2025年11月】
※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
EPライター:Sachiko.G
コールセンターやホテル、秘書、専門学校講師を歴任。いずれも多くの人と関わる仕事で、その際に出会った人や出来事を起点にライター活動をスタート。現在は働く人へのリサーチをメインフィールドに、働き方に関するコラムを執筆。

