同僚の鈴木さん
職場には、いつもよく仕事ぶりをよく褒めてくれる鈴木さん(仮名)がいました。原稿が無事に完成したときや、特集ページがうまくまとまったときには、「今回、よかったですね」と必ず声をかけてくれていました。同僚の中でも、率直に褒めてくれる数少ない存在だったため、本当に励みになっていました。
一見褒め言葉、でも心に残る小さな釘
しかし、その褒め言葉には、いつも微妙に引っかかるものがありました。「よかったですね。でも、前よりは無難でしたけど」「読みやすかったです。前回ほど尖ってはいませんが」褒めの後に必ず小さな釘が刺されるような一言が続くのです。
悪意はなさそうで、鈴木さん本人はあくまで客観的な意見を言っているつもりなのでしょう。それでも、言葉を受け取った瞬間は喜ぶものの、心の奥には小さなモヤモヤが残り、気持ちが少しだけ沈むこともありました。
伝える勇気
ある日、思い切って自分の正直な気持ちを伝えてみることに。ランチの後、少し緊張しながら言葉を選び、私は「率直な感想は本当にありがたいです。でも、良かったところはそのまま褒めてもらえると、すごく励みになります」と伝えました。
鈴木さんは少し驚いたようで、一瞬言葉を詰まらせ、ゆっくりとうなずきながら「そんなふうに聞こえていたんですね……。気づかなくてすみません」と素直に受け止めてくれました。その姿を見たとき、私はほっとすると同時に、伝えることの大切さを実感しました。
伝え方で変わる、心に響く褒め言葉
それ以降、鈴木さんの褒め方は劇的に変化しました。「今回の構成、すごく読みやすかったです」と、余計な一言を添えずに、純粋に良さを伝えてくれるようになったのです。
この経験を通して学んだことは、言葉そのものの力だけでなく、受け取る側の気持ちまで想像できるかどうかの大切さ。ちょっとした褒め方の違いで、職場の空気や人のやる気は静かに、でも確実に変わること。深く心に刻まれた出来事でした。
【体験者:20代・女性会社員、回答時期:2023年12月】
※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
EPライター:miki.N
医療事務として7年間勤務。患者さんに日々向き合う中で、今度は言葉で人々を元気づけたいと出版社に転職。悩んでいた時に、ある記事に救われたことをきっかけに、「誰かの心に響く文章を書きたい」とライターの道へ進む。専門分野は、インタビューや旅、食、ファッション。

