直前キャンセルの電話と「特別扱い」の要求
ある日、3泊4日の北海道旅行を予約されていたA様から、出発直前にキャンセルの電話が入りました。 「連れがインフルエンザにかかってしまってね。キャンセルしたいんだ」
楽しみにしていた旅行に行けなくなるのは本当にお気の毒です。しかし、出発直前となれば、旅行条件書に基づき所定の「取消料」が発生します。私が恐縮しながらも、規定通りの金額をご案内すると、受話器の向こうでA様の声色がガラリと変わりました。
「はあ? インフルエンザだと言っただろう。こちらの都合じゃないのに、金を取るのか!?」
「腕の見せどころ」という謎理論
「大変心苦しいのですが、理由に関わらず取消料はお支払いいただく規定となっておりまして……」私が何度説明しても、A様は納得しません。「規定はわかってるけどさ、そこを何とかうまく処理するのが、君たちの腕の見せどころじゃないの?」
そんな「腕」は持ち合わせていない! と心の中で叫びながら、私は努めて冷静にいったん電話を保留にし、店長へ相談しました。もちろん店長の判断も「規定通りいただく」というものです。再度、丁重にお伝えすると、A様はいよいよ強硬手段に出てきました。
「SNSに晒すぞ!!」
「今のやり取り、全部録音しているから。SNSにアップしてやるよ。炎上したらどうなるか分かってるよね?」それは明らかに脅迫でした。
その時です。横で通話をモニタリングしていた店長が、スッと手を伸ばして受話器を受け取りました。 「お電話代わりました、店長の〇〇です。お客様のご事情はお察しいたしますが、取消料は、旅行条件書に基づく正当なご請求です。どうぞ、その録音をSNSにあげていただいて構いません」
「は……?」A様の狼狽する気配が伝わってきます。
脅しは通用しない、毅然とした幕引き
予想外の反撃に、A様は言葉を詰まらせました。「ほ、本当にいいんだな! どうなっても知らないぞ!」最後に精一杯の捨て台詞を残し、電話はガチャンと切られました。 もちろん、その後SNSに投稿された形跡はありませんでした。自分に非があることを理解していたのでしょう。
後日、A様は営業所の「要注意顧客(ブラックリスト)」に登録され、新規予約お断りとなりました。
【体験者:60代・女性会社員、回答時期:2025年11月】
※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
EPライター:Sachiko.G
コールセンターやホテル、秘書、専門学校講師を歴任。いずれも多くの人と関わる仕事で、その際に出会った人や出来事を起点にライター活動をスタート。現在は働く人へのリサーチをメインフィールドに、働き方に関するコラムを執筆。

