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旅行会社のカウンターで働いていた頃、お客様から人気だった「レストラン予約サービス」。取れるはずのない席が奇跡的に取れてしまったことで起きたクレーム。その理不尽な要求を止めたのは、思わぬ人物でした。

京都の紅葉シーズンで無理なご依頼

当時、新しく始まった「旅先でのレストラン予約サービス」は、地元の超人気店を事前に予約できると好評でした。

紅葉シーズン真っただ中の土曜日。ご家族で京都旅行中の50代男性から、一本の電話が入りました。「明日のランチの予約をしてほしいんだが」「この時期、明日のご予約は非常に困難かと存じますが……」そう前置きしつつ、私はダメ元で店へ電話をかけました。

予約の条件

店から返ってきたのは意外な回答でした。「ちょうどキャンセルが出て、入り口すぐのお席でよろしければ、一卓だけ空いています」まさに奇跡です。私は急いで男性へ折り返しました。

「奇跡的に空いておりました。ただ、入り口のすぐ近くのお席になりますが、よろしいでしょうか?」念を押すと、男性は「ああ、構わない。そこでいいから押さえてくれ」と即答。こうして予約が確定し、私は、なんてラッキーなご家族だろう、と思っていたのです。

まさかの屁理屈

翌日。予約時間を少し過ぎた頃、男性から怒りの電話が入りました。「おい! どうなってるんだ!」受話器越しでも勢いが伝わる声でした。「こんな席じゃ落ち着いて食事ができないじゃないか! 奥の席も空いているぞ。店と交渉しろ!」「申し訳ございませんが、今は空いていても予約席かと存じます。それに、入り口近くのお席であることはご了承済みのはずですが……」

冷静に伝えても、男性は聞く耳を持ちません。そして、まさかの一言が放たれたのです。「入り口に近いとは聞いたが、一番入り口に近いとは聞いていない!」これ以上店内でごたごたしていると、店との今後の関係にも影響します。何とか男性に納得してもらわねばならず、私は焦っていました。

まさかの強制終了

その時でした。電話の奥から、若い女性の声がはっきりと聞こえてきました。「お父さん、もう恥ずかしいからやめてよ!」男性が言い返そうとする気配もむなしく、女性は続けます。「席なんてどこでも味は同じでしょ。それより、もうお腹すいたわ」

次の瞬間、電話の主は娘さんと思われる女性に代わりました。「お騒がせして申し訳ありません。このままお食事いただきます。予約を取っていただき、ありがとうございました」「い、いえ、こちらこそ……」そう答える間もなく電話は切れました。

娘さんの冷静な一言で、父親のクレーム劇はあっけなく幕を下ろしました。私は受話器の向こう側の娘さんに、深く頭を下げました。

【体験者:60代・女性会社員、回答時期:2025年11月】

※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。

EPライター:Sachiko.G 
コールセンターやホテル、秘書、専門学校講師を歴任。いずれも多くの人と関わる仕事で、その際に出会った人や出来事を起点にライター活動をスタート。現在は働く人へのリサーチをメインフィールドに、働き方に関するコラムを執筆。

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