薬局に置いてある商品の役割
薬局には、一般用医薬品や食品・日用品・血圧計などの商品がずらりと並んでいます。お薬のついでに買う人もいれば、コンビニ代わりに利用する人も。薬局にとってこれらの商品たちは、患者さんとの会話のきっかけになったり、大事な売上のひとつだったりします。
値段では勝てない
しかし、常連患者の岡本さん(仮名)はいつも不満げでした。その原因は、値段です。「薬局で売ってるものって、どれも割高よねえ? スーパーだったらもっと安く買えるのに!」確かに、価格面では大手小売店に太刀打ちできません。少量での発注が多く、仕入価格が高くなってしまうのです。
やがて岡本さんは、商品を見ている他の患者さんにも「それ、スーパーのほうが安かったですよ」と声をかけるようになりました。本人に悪気はなく、親切心からの声かけゆえに、私たちスタッフも「スーパーには勝てないなあ」と、苦笑いするしかありません。
親切心からのアドバイス
その日も、岡本さんはお薬の待ち時間に店内を歩き回っていました。目に入ったのは、車いすに乗った年配女性とそのご家族。かごいっぱいに買い物している姿を見て、すかさず声をかけます。「あっちのスーパーのほうが安かったですよ! 買い物は帰りにした方いいんじゃないですか?」
値段以外の価値がある
車いすの女性は驚きつつも、にっこり笑って答えました。「ご忠告ありがとう。でも私ね、月に一度、娘とここで買い物するのが何よりの楽しみなの。普段出かけられないから、これが貴重なイベントなのよ」
車いすの女性にとっては「薬局で娘と過ごす時間そのもの」が楽しみで、どうやら値段は二の次のよう。岡本さんは「あ、そうなんですか……」と静かに引き下がりました。
価値観は人それぞれ
自分とは異なる価値観を目の当たりにした岡本さん。この日を境に、値段の話をすることはなくなりました。代わりに「このお菓子、おいしい?」など、商品そのものに興味を持ってくれるように。少しのやりとりが、人の見方を変えることもあるんだなあと感じた出来事でした。
【体験者:30代・女性会社員、回答時期:2023年9月】
※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
EPライター:S.Takechi
調剤薬局に10年以上勤務。また小売業での接客職も経験。それらを通じて、多くの人の喜怒哀楽に触れ、そのコラム執筆からライター活動をスタート。現在は、様々な市井の人にインタビューし、情報を収集。リアルな実体験をもとにしたコラムを執筆中。

