特定の人物だけに厳しい店長
私の働く調剤薬局は、女性が多めの職場です。男性は店長ともう一人のスタッフ・矢部さん(仮名)のみ。矢部さんはちょっぴり気の弱い、おっとりとした性格の薬剤師です。店長はなぜか、矢部さんに注意する時だけ口調が厳しくなっていました。
あくまでも「指導」と言い張る店長
「指導」と言いつつ声を荒げることも多く、その度に現場の空気は張りつめます。店長の声に委縮した矢部さんは、さらにミスを繰り返すという悪循環に陥っていました。
他のスタッフがやんわりと店長を注意しても、「あいつはあれくらい言わないと分からないんだよ」と、聞く耳を持ちませんでした。
外部の目が入る
ある日、大学の薬学部から実習生が入ることに。会社にとっては、来年度から一緒に働くかもしれない貴重な人材候補です。しかし、実習期間中だけその場を取り繕うなんてできません。矢部さんがミスをするたびに店長は「バカか、何やってるんだ!」と叱責します。
「しまった」という顔をしたところで、言った言葉は元に戻りません。初日はあんなに目を輝かせていた実習生も、日が経つにつれて輝きを失っていきました。
最終日、実習生は店長に向かってこう言いました。「入社前に、この会社の実情が知れてよかったです。あなたのような上司がいるなら、就職先は他を探します」
行き過ぎた言動が招いた末路
この出来事は、実習生を通して本社にも知られることとなりました。貴重な人材候補を幻滅させたうえに、会社の信用はガタ落ちです。責任を問われ、店長は左遷されることに。次にやって来た店長は人当たりもよく、矢部さんを含む私たちスタッフはのびのびと仕事が出来るようになりました。
「あいつは、あれくらい言わないと分からない」その言葉のツケは、結局本人に返っていったのです。一番分かっていなかったのは、他ならぬ店長だったのかもしれません。
【体験者:40代・女性会社員、回答時期:2022年10月】
※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています
EPライター:S.Takechi
調剤薬局に10年以上勤務。また小売業での接客職も経験。それらを通じて、多くの人の喜怒哀楽に触れ、そのコラム執筆からライター活動をスタート。現在は、様々な市井の人にインタビューし、情報を収集。リアルな実体験をもとにしたコラムを執筆中。

