幼稚園のママ友グループ
私の息子が通う幼稚園は働くママが多く、自然と専業主婦のママたちのグループができていました。子どもを幼稚園に送ってから迎えの時間まで、ランチやお茶をするのが日課のようになっていたのです。
グループの中心的存在は、里菜さん(仮名)。ご主人は外資系の銀行員で、経済的に余裕のあることが、彼女の自宅や会話の端々から明らかでした。
最初の頃は、育児の悩みを共有したり、教育方針について話したり、ママ友たちと過ごす時間はとても意義のあるものだと思っていました。なにより、息子が幼稚園に入るまでの孤独な育児が嘘のように感じられ、新しいつながりが嬉しかったのです。
増幅する違和感
しかし、毎日のように集まっていると、話題も次第に尽きてきます。そんな時、決まって里菜さんが提案してくるのです。「次は、みんなで自分の結婚式の写真を持ち寄りましょう!」「自分の持っている一番高い服でホテルランチはどう?」
里菜さんは、純粋に楽しんでいるようでしたが、奈津子は次第に違和感を感じ始めたのです。「まるでマウントの取り合い……?」一度芽生えた感情は、日に日に大きくなっていきました。
しかし、簡単にはママ友のグループは抜けられません。もっともらしい理由がなければ、子どもがいじめられるかもしれない。そんな不安が、心に重くのしかかっていきました。
仕事を始めて、自然なフェードアウト
私は夫とも相談し、パートの仕事を始めることにしました。当初は息子が小学校高学年くらいになったらと考えていましたが、少し早めたのです。朝10時から午後2時頃までの仕事なら、幼稚園の送り迎えにも家事にも支障がありません。仕事はすぐに決まりました。
「来月から働くことになったの。だから、平日のランチは難しくなっちゃって」里菜さんたちに伝えると、「そうなんだ、残念ね」という反応。私は無事、自然な形でママ友グループからフェードアウトできたのです。
ホッとした矢先のことでした。ある日、息子が不思議そうな顔で聞いてきました。「ママ、うちはお金がないの?」私は驚いて、理由を尋ねました。すると、里菜さんの子どもからそう言われたというのです。
子どもの世界に入り込む大人の価値観
私は、その瞬間、グループを抜けた判断が間違っていなかったと確信しました。大人の価値観は、知らず知らずのうちに子どもの世界にも影を落としているのです。
仕事を始めたことで、生活は忙しくなりましたが、心はずっと軽く、すがすがしい毎日を取り戻しました。自分で選んだ環境で、健やかに子育てをする。それが何より大切だと改めて感じたのです。
【体験者:30代・女性会社員、回答時期:2019年9月】
※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
EPライター:Sachiko.G
コールセンターやホテル、秘書、専門学校講師を歴任。いずれも多くの人と関わる仕事で、その際に出会った人や出来事を起点にライター活動をスタート。現在は働く人へのリサーチをメインフィールドに、働き方に関するコラムを執筆。

