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私が調剤薬局で働いていた時の出来事です。たくさんの患者さんとやりとりをしていると、日々色んなドラマが起こります。その中でもクスッと笑える、忘れられないエピソードを紹介します。

シャイな若者に呼び止められる

いつものように受付対応をしていると、ある患者さんに呼び止められました。呼び止めてきたのは高木さん(仮名)。学生か新社会人くらいに見える、20代の男性です。

高木さんは人見知りなのか、彼の印象はとにかくシャイ。受付対応の時に目が合うことはなく、こちらの問いかけにも、一言二言返すのが精一杯な様子でした。

ドラマやマンガでよくある、ベタなシチュエーション

そんな高木さんが私に声をかけ、視線をこちらにまっすぐ向けています。明らかに普段とは違う様子で、思わず胸がざわつきました。

「あの……実は僕……」と言いながらも、その後の言葉が続きません。顔を赤らめ、何かを言いよどんでいます。私が頭の中に思い浮かべたのは、ベタな告白シーン。ドラマやマンガでよく見るような、お決まりの展開です。すぐさま妄想を打ち消しますが、高木さんの様子はどう見ても「それ」でした。

「いやいや、さすがにこんなところで告白なんてしないでしょう。でもこの様子だと……もしかして、もしかするのか……?」数秒の沈黙の間に、脳内ではあらゆる可能性が、浮かんでは消えていきました。

告白の内容とは

そしてついに、高木さんは勇気を出して、大切なことを伝えてくれました。「あの、実は僕……『たかぎ』じゃなくて『たかき』なんです!」

なんということでしょう。私を含むスタッフ全員が、苗字の呼び方を間違っていたのです。シャイな高木さんがその間違いを指摘するのに、どれほどの勇気がいったことか。言い終わった後の顔は真っ赤に染まっていました。もう平謝りするしかありません。別の意味で、私まで顔が真っ赤になってしまいました。

ラブじゃなくてよかったけど

外来終了後、誰もいなくなった店内で同僚にも「高木さんのあの雰囲気は、ラブが始まるかと思ったよね……」と言われる始末。

「たかき」さん、名前の呼び間違い、大変申し訳ございませんでした。そして一瞬のときめきを、ありがとうございました。

【体験者:30代・女性会社員、回答時期:2020年5月】

※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。

EPライター:S.Takechi
調剤薬局に10年以上勤務。また小売業での接客職も経験。それらを通じて、多くの人の喜怒哀楽に触れ、そのコラム執筆からライター活動をスタート。現在は、様々な市井の人にインタビューし、情報を収集。リアルな実体験をもとにしたコラムを執筆中。

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