異常を“普通”と思っていた日々
保険会社に入って3年目、多忙な部署に配属されました。毎日朝7時から夜23時まで会社にいるのが当たり前。先輩たちも全員がその生活をしていたので、当初はそれが異常だとは思ってもいませんでした。残業の多さを上司に相談しても、「それが仕事だから」と突き放されて終わり。根性論と自己犠牲が美徳とされる職場で、私はこのままでいいのだろうかと考え始めました。
小さな決意、21時退社
このままでは心も体も持たないと思い、せめて今週だけはと自分のためにたった1週間、21時退社しようと決めました。朝は30分早く出社し、タスクを徹底的に整理。月曜も火曜も、21時にオフィスを出るときは震えるような緊張感。「まだ終わってないでしょ」と言われる覚悟をしていましたが、誰も何も言いませんでした。
久しぶりに営業中の飲食店の明かりを見て、ほんの少しだけほっとして、自分を取り戻せた気がしました。
胸に刺さった、先輩のひとこと
ところが木曜、また21時頃帰り支度をしていた私に先輩が一言。「なんか最近暇そうでいいね」。その何気ない言葉が、グサッと刺さりました。暇なんかじゃない。必死に絞り出した時間でした。
言い返せなかったけれど、心の中で線を引きました。——この職場では、頑張り方を間違えてしまう。そう確信した瞬間でした。その日を境に、私は本気で転職を考え始めました。
傷ついた一言がくれた自由
半年後、まったく違う業界へ転職し、土日休みで18時に退社できる生活を手に入れました。皮肉にも、私を自由にしてくれたのは、あの先輩の一言でした。あのときの言葉がなければ、今も自分を後回しにしていたかもしれません。あの日の痛みが、私に「自分を守る」という選択肢を思い出させてくれたのです。
【体験者:20代・女性会社員、回答時期:2022年10月】
※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
EPライター:Ryoko.K
大学卒業後、保険会社で営業関係に勤務。その後は、エンタメ業界での就業を経て現在はライターとして活動。保険業界で多くの人と出会った経験、エンタメ業界で触れたユニークな経験などを起点に、現在も当時の人脈からの取材を行いながら職場での人間関係をテーマにコラムを執筆中。

