いつもお弁当を覗きにくる人がいた
これは、私が結婚して間もないころの話です。当時の職場に、毎日お弁当をチェックしてくるおじいさん社員がいました。
お昼休みになると、どこからともなく現れて「今日は何が入ってるんだ?」と覗き込んでくるのです。最初は冗談かと思いましたが、次の日も、その次の日も続く。私は正直、ちょっと苦手でした。
毎日チェックされるのがイヤだった
私のお弁当は、前日の残り物を詰める日もあれば、「今日はコンビニでいいや」と決める日もあります。だから毎日チェックされるのは本当にイヤで……。
「お、今日は唐揚げか!」「昨日は卵焼きだったな〜」と、いちいち覚えてコメントしてくるのも地味にプレッシャー。しかも周囲に「今日の○○さんの弁当は〜」と話すので、余計に恥ずかしかったです。
ある日、「今日はコンビニなんですよ」と答えたら、「あら〜手抜きだなぁ!」と笑われ、内心カチン。“人の昼ごはんなんだから、ほっといて!”と思いました。
でも、本当はただ話したかっただけ
ところがその日、おじいさん社員がふと口にした一言に少し気持ちが変わりました。「俺も昔は、妻の弁当が楽しみでね。中身を見ると、なんか安心したんだ」その言葉を聞いた瞬間、胸のどこかが少しだけ温かくなりました。
もしかしたら、ただからかっていたのではなく、誰かとごはんの話をしたかっただけなのかもしれません。少し寂しそうな表情が、印象に残りました。それからは、多少気になることはあっても、穏やかに応じられる余裕が持てるようになりました。
嫌だった存在が、いつの間にか“昼の名物”に
数日後、お弁当を忘れて外で買ってきた日。「今日は弁当ないのか? なんか寂しいな」と言われ、思わず笑ってしまいました。嫌だったはずの存在が、いつの間にか“昼の名物”みたいな存在に変わっていたのです。
気づけば毎朝、「今日は何を入れようかな。あの人、また見てくるだろうな」と思いながら作っている自分がいました。毎日お弁当をチェックしてくるおじいさん社員ーー最初は迷惑に感じていたけれど、その人のおかげで、私と旦那のお弁当を作る毎日にやる気をもらえた気がします。
【体験者:30代・女性会社員、回答時期:2023年9月】
※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
EPライター:北山 奈緒
企業で経理・総務として勤務。育休をきっかけに、女性のライフステージと社会生活のバランスに興味関心を持ち、ライター活動を開始。スポーツ、育児、ライフスタイルが得意テーマ。

