人間クッションのような人
同僚の佐藤さん(仮名)は、とにかく「わかる〜!」が口癖でした。誰かが愚痴をこぼせば「わかる〜!」ミスを報告しても「わかる〜!」と、どんな話にも共感の嵐。まるで、みんなのクッションのような存在でした。
優しさの奥にあった、小さな違和感
最初のうちは、その「共感力」に本当に救われていました。落ち込んでいたとき、佐藤さんの「わかる〜!」「そういうときあるよね〜」という一言で、気持ちが少し軽くなっていました。ところが、あるときふと違和感を覚えたのです。「この人、話の中身をあまり聞いてないのかも?」と。
共感の天才、まさかの真実
そんなある日、薬剤師さんから「患者さんから苦情が来てた件、聞いた?」と確認されました。私は「聞きました! 佐藤さんにも報告しておきました!」と答えたのですが、薬剤師さんの口から出たのは思いがけない一言。
「えっ、佐藤さん『初耳です〜! わかる〜って言っただけ〜』って言ってたよ」
その瞬間、背筋がすっと冷えました。返事はしているものの、スルーしていたことが発覚。あの「わかる〜!」には、何の意味もなかったのです。
けれど、不思議と怒る気にはなれませんでした。むしろ「佐藤さんらしいな」と思ってしまったほど。都度、誰かに寄り添いつつ、内容はすぐに流れていく。そんな天然っぷりも、彼女の魅力の一部のように思えたのです。
つい笑っちゃうけど、心に残る「わかる〜!」
それ以来、佐藤さんの「わかる〜!」を聞くたびに、みんなで笑ってしまうことも。「たぶんわかってないけど、ありがとう」と心の中でつぶやきながら、彼女の共感に今日も感謝しています。
【体験者:20代・女性会社員、回答時期:2015年5月】
※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
EPライター:miki.N
医療事務として7年間勤務。患者さんに日々向き合う中で、今度は言葉で人々を元気づけたいと出版社に転職。悩んでいた時に、ある記事に救われたことをきっかけに、「誰かの心に響く文章を書きたい」とライターの道へ進む。専門分野は、インタビューや旅、食、ファッション。

