毎回“2分遅れ”でやってくる課長
私の会社では、月に数回、他部署との合同ミーティングがあります。相手部署の杉村課長(仮名)は、少し時間にルーズなことで知られていました。特別な事情があるわけでもなく、ただ毎回、なぜか“きっちり2分遅れ”でやって来るのです。
5分でも10分でもなく、いつも2分。最初はたまたまかと思いましたが、回数を重ねるうちに「また今日も2分……」と、気になって時計を見るのが習慣になってしまいました。
2分の遅刻が、もはや恒例に
定刻になると、参加者が一斉に資料を開き会議を始めようとします。その2分後、ゆったりドアが開き「いや〜お待たせ」と笑顔で入ってくる杉村課長。遅れている自覚はあるのに、悪びれた様子もなく、席に着くなり世間話を始める姿に、正直イラッとすることもありました。
みんな自分の仕事を切り上げて時間通りに集まっているのに……。それでも相手は他部署の課長。指摘できる立場でもなく、私を含めたメンバーはいつも苦笑いで受け流すしかありませんでした。気づけば「杉村課長が来てから始まる」が暗黙のルールになりつつあり、なんとも微妙な空気が漂っていました。
思わぬゲスト登場
そんなある日の会議。開始時間を過ぎても杉村課長の姿はありません。「どうせまた2分後だろう」と思っていたその瞬間、ドアが開いて入ってきたのは……なんと専務でした。「たまには顔を出してみようと思ってね」と穏やかに笑う専務。場が少しざわつく中、私の頭の中に「杉村課長、早く!」という言葉がよぎります。
そしてドアが再び開き、予想通り遅れた杉村課長が登場。専務とばっちり目が合い、課長の表情が固まるのが見えました。
ついに回ってきた“2分のツケ”
専務はにこやかに、「おや、君はいつもこの時間に来るのかな?」とやんわりひとこと。会議室は気まずい空気になり、課長は「い、いえ、今日はちょっと……」と小声でごまかすしかありませんでした。専務は笑顔のまま「今後は“定刻スタート”を徹底しよう。みんな忙しいんだからね」と軽く釘を刺し、会議が始まりました。
それ以来、杉村課長が2分遅れることはなくなりました。私はつい心の中で「専務、ナイスアシストです」とそっと拍手を送りました。
【体験者:30代・女性会社員、回答時期:2025年10月】
※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
EPライター:辻 ゆき乃
調剤薬局の管理栄養士として5年間勤務。その経験で出会ったお客や身の回りの女性から得たリアルなエピソードの執筆を得意とする。特に女性のライフステージの変化、接客業に従事する人たちの思いを綴るコラムを中心に活動中。

