突然の訪問者
薬局に入社して2年目、初めての店舗異動を経験し、3か月が過ぎようとしていました。連休明けの外来対応中、いつものように業務をこなしていると、カウンターに近づいてきたのは2人の男性。見た瞬間、少し違和感がありました。2人とも、ぶかぶかな薄手のパーカーを着ていて、ファスナーはきっちり閉められています。中に着ているものを隠しているようでした。
訪問者の正体に驚く
「先ほどお電話した者です」という言葉とともに、差し出されたのは警察手帳。確かにパーカーの隙間からは、それらしき制服が見え隠れしています。身分が分かって安心したと同時に「どうして警察が薬局に?」と疑問が浮かびました。電話は他のスタッフが対応したのでしょう。しかし、外来が立て込んでいて引き継ぎができていません。
事件の予感
「警察が来るなんてただ事じゃない。もしかして、私の知らないところで何か重大な事件でも起きているの……!?」一瞬のうちに脳内でサスペンス劇場が開幕します。そうしているうちに、電話を受けたであろう先輩スタッフが駆け寄ってきました。
「お待たせしました~! こちらがご依頼のお薬です。請求書については後日連絡しますね」
警察とのやりとりは、あっけなく終了
薬を受け取った警察官たちは、すぐに薬局を去っていきました。一瞬の出来事にポカンとしつつ、疑問が止まりません。ここは薬局だから、お薬を渡すのは当然。ん? でも警察に? ハテナ顔の私に、先輩スタッフは事の経緯を教えてくれました。
実は薬局では、必要に応じて留置所にいる人の処方せんを受け付けることがあるのです。そのお薬を、警察官が代理人として引き取りに来るのだそう。制服姿を隠していたのは、周囲への配慮からでした。
そんなことはつゆ知らず、脳内であらゆる事件を想像した私。この仕事をしていなければ、知らないままだったかもしれません。また一つ、業界の知られざる日常をのぞき見た瞬間でした。
【体験者:20代・女性会社員、回答時期:2016年6月】
※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
EPライター:S.Takechi
調剤薬局に10年以上勤務。また小売業での接客職も経験。それらを通じて、多くの人の喜怒哀楽に触れ、そのコラム執筆からライター活動をスタート。現在は、様々な市井の人にインタビューし、情報を収集。リアルな実体験をもとにしたコラムを執筆中。

