職場の誰もが一目置く人
同僚の佐々木さん(仮名)は、上司や患者さんの前ではいつも笑顔を絶やさず、誰にでも丁寧な言葉遣いで接していました。
職場でも「模範的な社員」として評価され、私自身も当初は尊敬の念を抱いていたほどでした。
笑顔の裏でささやかれる陰口
ところが、ある日休憩室の前を通りかかったとき、ドアの向こうから私の名前と笑い声が聞こえてきました。「若いだけで、全然仕事できないんだから」という佐々木さんの声。背筋が凍るような思いでした。
その後も同僚から「さっき佐々木さん、あなたのことを患者さんと『しゃべってばっかりで使えない』って言ってたよ」と耳打ちされ、陰口が1度きりではないと知ったのです。
それ以来、彼女の笑顔を目にするたび、裏の顔が頭をよぎり、胸の奥にストレスが溜まっていったのでした。
努力の成果と、崩れていく仮面
私は黙って耐えるのではなく、意識的に行動を変えました。業務記録を残し、改善点を提案し、報告も欠かさず行ったのです。
その積み重ねが評価され、上司から「細かいところまで見ていて助かる」と声をかけられるようになり、患者さんからも「説明が丁寧で安心できる」と信頼されるようになりました。
一方で、佐々木さんの裏の顔は周囲に徐々に露呈していきました。
患者対応が終わった直後に「今の人、面倒くさかった」と吐き捨てる姿を同僚が見てしまったり、他人の仕事の失敗をあざ笑う声が聞こえたり。
次第に「佐々木さんって表と裏が違うよね」という噂が広がり、以前は人が集まっていた休憩室でも、彼女が1人スマホを眺める光景が日常になっていきました。
仮面が剥がれた最後
そして決定的な出来事が起きたのです。
患者さんからのクレームに対し、上司に呼ばれた彼女は「私じゃなくて〇〇さんが」と責任を押し付けるような発言をしたのです。
その瞬間、周囲の信頼は完全に失われました。誰も彼女をかばわず、孤立は決定的となりました。
結局、佐々木さんは退職を選ぶことに。かつて模範的に見えた彼女の姿と、最後に1人で職場を去っていく背中。その落差は今でも鮮明に記憶に残っています。
【体験者:20代・女性会社員、回答時期:2015年8月】
※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
EPライター:miki.N
医療事務として7年間勤務。患者さんに日々向き合う中で、今度は言葉で人々を元気づけたいと出版社に転職。悩んでいた時に、ある記事に救われたことをきっかけに、「誰かの心に響く文章を書きたい」とライターの道へ進む。専門分野は、インタビューや旅、食、ファッション。

