サイズ選びの難しさ
私は、あるお店の下着売り場に勤務していました。
お客様の多くは「普段このサイズです」と自己申告して商品を選びます。しかし、ほとんどが実際のサイズと一致していないのです。
これは“下着売り場あるある”で、特にカップサイズは感覚と現実に大きな差が出やすいのですが、試着を勧めても「大丈夫です」と断られることもしばしば。私たち販売員にとっては、サイズの話題がいかにデリケートであるかを痛感させられる毎日です。
あるカップルが来店
ある日、1組のカップルが仲良く売り場に来店しました。
彼氏が「これ可愛い! すごい唯ちゃん(仮名)に似合いそう!」と、あるデザインを嬉しそうに勧めます。彼女は彼氏の前で「私はこのくらいだな〜」とMサイズを手に取りました。
私は「商品によって作りが異なるので、採寸をおすすめします」と声をかけましたが、彼女は「いつもここで買っているし、今まで合わなかったことがないから大丈夫です」と断言。
しかし、なぜか会計時には「もし合わなかったら返品交換できますか?」と、念を押すように確認してきました。
返品で明かされた“本当の理由”
翌日、その女性から「やっぱりサイズが合いませんでした……」と返品の連絡が入りました。
やり取りの中で彼女は意を決したように「実は、サイズを少し盛ってしまって……」と打ち明けました。彼氏は胸の大きい人が好みだと友達から聞いていたため、彼女は胸の大きさに強いコンプレックスを抱えていたようです。
好きな人に嫌われたくない一心で、つい本当のサイズを言えなくなってしまった――。その切ない事情に、なんだか私は胸が痛くなりました。
正直さが心地よさにつながる
その後、女性は一人で来店するようになり、落ち着いた様子で商品を選ぶようになりました。
下着は毎日身につけるものだからこそ、ちょっとした背伸びや見栄がかえって不便さにつながってしまうことも。少しの見栄よりも、自分に合ったサイズを正直に選ぶことが、長い目で見れば自分を楽にし、心地よさをもたらすのだとこの経験が教えてくれました。
【体験者:40代・販売員、回答時期:2024年7月】
※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
EPライター:Tomoyo.H
郵便局や年金機構、医療法人の管理部門を歴任。これらを通して、働く人の労務問題や社会問題に直面。様々な境遇の人の話を聞くうちに、そこから「自分の言葉で誰かの人生にいいきっかけをもたらせたら」と、執筆活動をスタート。得意分野は、健康や自然食、アウトドア。