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大切な人を見送る場では、時に説明のつかない出来事が起きることがあります。それは偶然なのか、それとも、何かを伝えたいからなのか……。今回は筆者本人が体験した、火葬場での忘れられないエピソードを紹介します。

父を見送る日

62歳で亡くなった父の火葬の日。もう二度と、あの優しかった笑顔を見ることも、私の頭をなでてくれた大きな手に触れることもできないと思うと、自然に涙が溢れました。火葬場にはたくさんの人が集まってくれて、父を囲むように見送っていたのです。

動かない棺

いよいよ炉に棺を納めるという時、不思議なことが起こりました。機械が動かず、棺が中に入っていかないのです。

火葬場職員も葬儀屋も「何で入らないんだ?」と戸惑い、押したり引いたりを繰り返していました。場はざわめき、不安が広がります。しばらくして、今度はすんなりと炉の中へ吸い込まれるように入っていきました。私は住職のお経に手を合わせながら、胸の奥に妙なざわつきを感じていたのです。

突然開いた扉に騒然

葬儀屋のスタッフが「これから2時間ほど……」と説明していた瞬間でした。――ギギィィ……と重い金属がこすれるような音を立てて、閉まっていたはずの炉の扉がゆっくりと開き始めたのです。

「開いてる!」という叫びで、その場は一気に緊迫した空気に。裏で待機していた火葬場職員が慌てて駆け寄り、力を込めて扉を押し戻すまでの数秒間、親族も葬儀屋もただ息を詰めて見守るしかありませんでした。張り詰めた空気がその場を支配し、背筋に冷たい汗が流れました。

未練があった?

やっと炉の扉が閉まり、火葬が始まりました。

母は「お父さん、まだ生きたいって言ってたから……諦めきれなかったのかも」とぽつり。けれど、私は兄弟たちと顔を見合わせました。父は昔からいたずら好きで、人を驚かせて笑うのが大好きな人だったのです。確かに、まだ生きていたかったという未練もあったかもしれません。けれど、あの異常な出来事は、父が最後に仕掛けたいたずらだったようにも思えました。

伝えたかった思い

恐ろしいようで、どこか父らしさを感じさせる出来事。悲しみの涙だけでなく、その人らしいエピソードもまた、生きた証として心に刻まれます。

あの扉の音と緊迫した空気を思い出すたびに、「忘れないでよ」という父の声が聞こえる気がするのです。

【体験者:40代・女性パート、回答時期:2025年8月】

※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。

EPライター:hiroko.S
4人を育てるママライター。20年以上、接客業に従事。離婚→シングルマザーからの再婚を経験し、ステップファミリーを築く。その経験を生かして、女性の人生の力になりたいと、ライター活動を開始。現在は、同業者や同世代の女性などにインタビューし、リアルな声を日々収集。接客業にまつわる話・結婚離婚、恋愛、スピリチュアルをテーマにコラムを執筆中。

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