入社2年目の恋の予感
知人の聡美(仮名)は、大手商社に勤める会社員。「この会社で未来のパートナーを見つける!」――彼女は入社当初から、同期の女性社員同士の会話でそう宣言していました。
入社2年目の春、彼女の部署に高橋さん(仮名)が異動してきました。彼は、アメリカでMBAを取得し帰国したばかりのエリート社員で、女性社員の憧れの的。聡美も密かに好意を抱いている一人でした。
憧れが恋に変わる瞬間
ある日、聡美の作成した資料にミスがあり、高橋さんが顧客から厳しい叱責を受けてしまいました。半泣きで謝り続ける聡美に対し、「僕の確認不足だから、そんなに気にしなくていいよ、間違いは誰にでもあるしね。僕もね……」彼はそう言って、新人時代の失敗談を披露し、聡美の心を軽くしてくれたのです。
その優しさに救われた瞬間、漠然とした憧れは確かな恋心へと変わりました。「彼に認められたい」その一心で仕事に打ち込む聡美に、高橋さんも何かと声をかけてくれるようになり、彼女は淡い期待を抱くようになっていったのです。
地震が暴いた真実
そんなある日の午後、突然、震度5弱の大地震が発生。椅子に座っていられないほどの揺れに、高層階のオフィスが悲鳴に包まれました。「机の下に隠れろ!」そんな声も聞こえてくる混乱の中で、聡美はまさかの光景を目にしたのです。
高橋さんが自分のデスクから急に走り出し、その視線の先を追うと、キャビネットの側で先輩社員のの英子さん(仮名)がコピー用紙を抱えて立ち尽くしていました。高橋さんは英子さんのもとへ行くと、ガタガタ揺れるキャビネットを必死に押さえていました。まるで彼女を守るように。
一瞬で、聡美はすべてを悟りました。彼女の胸には、地震の恐怖よりも恋の終わりを知った痛みが突き刺さりました。
苦い失恋からの復活
ほどなくして、高橋さんに海外赴任の内示が出て、英子さんとの結婚も公表されました。あの日の彼の行動は、無意識の、そして何よりも雄弁な「愛の宣誓」だったのです。
失恋の痛手を忘れるために聡美は仕事に没頭し、やがて周囲にも一目置かれる存在となっていきました。いつの間にか彼女の目標は、「会社で評価され昇進する」に変化。聡美にとって、恋の終わりはキャリアの始まりになりました。人生、何が転機となるか本当に分からないものです。
【体験者:30代・会社員、回答時期:2010年8月】
※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
EPライター:Sachiko.G
コールセンターやホテル、秘書、専門学校講師を歴任。いずれも多くの人と関わる仕事で、その際に出会った人や出来事を起点にライター活動をスタート。現在は働く人へのリサーチをメインフィールドに、働き方に関するコラムを執筆。