信じて働き続けた日々
地元にある、仕出しも行っている小さな食堂で働き始めて4年。私は主に仕出しや配達を担当していました。スタッフは少なく、朝4時出勤も当たり前という毎日です。最低賃金で手当もなし。娘たちからは「体壊すよ」と心配され続けていました。
それでも続けられたのは、オーナーの奥さんとの信頼関係があったからです。仕事だけでなく、食事や旅行に誘ってくれたあの優しさ。奥さんのためにも、地元に根付いたこの店を守りたいという気持ちでいっぱいでした。
奥さんの不在と変わる空気
そんなある日、奥さんが倒れ長期入院に。それを境に、店の空気は一変しました。奥さんと仲の良かった私を良く思っていなかったと思われるオーナーが、私に冷たく当たるようになったのです。
いつも通り作ったものも「味が違う」と仕込みをやり直させられたり、オーナーが勝手に持ち出した食材の在庫不足まで私のせいにされたり。理不尽な扱いを受けながらも、「奥さんが戻ってきてくれたら……」と希望を捨てずに耐えていました。
けれど、現実は非情なものです。奥さんはもう戻れる状態ではなく、私の心は少しずつ折れ始めていました。
決断させた言葉
そんな私に、オーナーが他の若いスタッフの前でこう口にしたのです。
「もう、あんたはこの店にいなくてもいいんじゃない?」
これまでの4年間、朝早くからきて働いて、繁忙期には16連勤も。必死でお店のために尽くしてきたつもりだったけど、オーナーのその一言によって、私の中で何かが切れました。
「分かりました。今日限りで辞めさせていただきます」そう伝えて帰り支度をし始めた私のもとに、若いスタッフ3人が駆け寄ってきました。
初めて聞く同僚たちの想い
「⚪︎⚪︎さん(私のこと)がいないと、この店回らないです」「辞めちゃうなら、私たちも一緒に辞めたいです」「⚪︎⚪︎さんがいたから頑張れたのに……」
初めて聞く同僚たちの言葉に胸が熱くなりました。けれど、私の気持ちはもう決まっている。「ありがとう。ごめんね。あとはよろしくね」そう笑って、私は3人に別れを告げました。
穏やかな毎日
それから数か月後、「あの店、従業員がいなくて続けられなくなったらしいよ。新しいスタッフもすぐに辞めていったみたいだし」という話を耳にしました。
正直、驚きはありません。
今、私は新しい職場で朝8時から夕方5時まで働き、穏やかな日々を過ごしています。あの4年間は確かに大変だったけれど、自分がどれだけ頑張れるのかを知ることができた、かけがえのない時間でもありました。
【体験者:40代・女性パート、回答時期:2025年7月】
※本記事は、執筆ライターが取材した実話です。ライターがヒアリングした内容となっており、取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
EPライター:hiroko.S
4人を育てるママライター。20年以上、接客業に従事。離婚→シングルマザーからの再婚を経験し、ステップファミリーを築く。その経験を生かして、女性の人生の力になりたいと、ライター活動を開始。現在は、同業者や同世代の女性などにインタビューし、リアルな声を日々収集。接客業にまつわる話・結婚離婚、恋愛、スピリチュアルをテーマにコラムを執筆中。