たまたま作った2つのおにぎり
シングルマザーとして、幼い息子2人を育てていた頃の話です。日中はドラッグストア、夕方から夜までは飲食店で働いていた私は、自分のためのお弁当を作る余裕はありませんでした。
けれど、その日はなぜか気まぐれでおにぎりを2つ作り、バッグに入れて出勤の準備をしていました。それを見た母が「珍しいね」と笑ったのを、今でも覚えています。
雨が降る12月の朝
12月の北国にしては珍しく、雪ではなく雨が降っていた日。息子たちを後部座席に乗せて、保育園へ向かいました。保育園が見下ろせる坂道に差し掛かった時、私の視界に入ったのは、歩道で大きく手を振っている男性の姿。
「え、何?」と思った瞬間、ブレーキがまったく効かなくなったのです。さらにはハンドルも効かず、車はそのまま加速。そして崩れかけたブロック塀に突っ込みました。
車体は大きく跳ねて横転。ガラスも割れ、数十メートルも滑って、ようやく止まりました。
後部座席の息子たちは
「子どもたちは!?」すぐに後部座席を確認すると、2人とも泣いていましたが、大きなケガはなさそうです。保育園リュックがクッションになってくれたようでした。
歩道にいた男性が駆け寄ってくれて、私たちは何とか車の外へ。しかし、路面はツルツルで立っていられません。凍った道路に雨が降ったことで、普段の何倍も滑りやすくなっていました。
私たちは救急車で搬送。私は顔にすり傷と軽い打撲、そして息子たちは奇跡的に無傷だったのです。
草むらに落ちていたもの
車をレッカーしてくれた地元の車屋さんが病院に来て、廃車になることを教えてくれました。そして、「あれだけの事故で、子ども達が無傷って信じられないな。そういえば、車の近くの草むらに、おにぎりが2つ落ちてたよ。」と口にしたのです。
私は驚きました。おにぎりはバッグの中に入れて、ちゃんと閉めていたはず。外に飛び出すなんて、考えられません。けれど、あの衝撃の中で息子たちが無事だったこと。そして、まるで身代わりのように飛び出していたおにぎり。
あれはただの偶然ではなかったのかも知れません。あの日、何となく作った2つのおにぎりに、目に見えない何かが宿っていたような気がしてならないのです。
【体験者:40代・女性パート、回答時期:2025年7月】
※本記事は、執筆ライターが取材した実話です。ライターがヒアリングした内容となっており、取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
EPライター:hiroko.S
4人を育てるママライター。20年以上、接客業に従事。離婚→シングルマザーからの再婚を経験し、ステップファミリーを築く。その経験を生かして、女性の人生の力になりたいと、ライター活動を開始。現在は、同業者や同世代の女性などにインタビューし、リアルな声を日々収集。接客業にまつわる話・結婚離婚、恋愛、スピリチュアルをテーマにコラムを執筆中。