予期せぬ大勢の来店
私が働いていた服屋さんの入るショッピングモールは、観光地への中継地点にあり、大型バスで多くの外国人観光客が訪れることがありました。
これは、私がその服屋さんで働き始めてから初めて観光バスがやってきた日のお話です。
ルールを伝えたいのに、言葉が通じない!
その日は、外国からの観光客の方々が次々とお店に入ってきて、たくさんの商品を試着室に持ち込む様子に圧倒されていました。
「試着は一度に3着まで」とお願いするルールがあったのですが、言葉が通じません。懸命に身振り手振りで説明しましたが、私たちの声が届いている様子はありませんでした。他のお客様への対応もありずっと付きっきりでいることもできず、常に周囲を気にしながらもそのまま時間が過ぎていきました。
想像を超えた店内の状況にスタッフ一同沈黙
やがて、観光客の皆さんが一斉に店を出ると、店内はまるで嵐が去った後のようでした。
畳んであった服はすべて広げられ、ハンガーの商品もバラバラに。「そういえば……試着室はどうなってる!?」と急いで試着室を確認すると、なんと商品が床に山積みになっていました。
その光景にスタッフ全員がしばらく言葉を失っていたのを覚えています。
柔軟に対応することの必要性を痛感
その後、店長は「観光バスが来ると、たまにこういうことが起きるんだよね」と苦笑い。私自身も長くアパレル業界で働いていましたが、初めての経験だったので大きなカルチャーショックを受けました。
この出来事を振り返って思うのは、観光客の皆さんは悪意があったわけではなく、日本のルールやマナーを知らないだけだったのかもしれないということ。言葉が通じなくても、外国語で簡単に伝えられる表記や案内があれば、混乱を少しでも防げたのではないかと思いました。
学んだ教訓と改善への気づき
接客の現場では時に予期せぬ出来事が起きますが、その度に「どうすればもっと良い接客ができるか」を考えるきっかけになります。
自分たちが当然のルールと思っていることを、必ずしもお客様が理解しているわけではありません。逆に私たちがお客様の側に強いていることが、相手からすればマナーに欠けた行動である可能性もなくはないのです。
大切なのは、「店のルールやマナーは当然お客様にも知っていただいている」と思うのではなく、協力してもらえるよう分かりやすく伝えること。今回の経験は、店の運営をより良くするための工夫の重要性を教えてくれました。
【体験者:20代・販売員、回答時期:2020年2月】
※本記事は、執筆ライターが取材した実話です。ライターがヒアリングした内容となっており、取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
EPライター:Mio.T
ファッション専攻の後、アパレル接客の道へ。接客指導やメンターも行っていたアパレル時代の経験を、今度は同じように悩む誰かに届けたいとライターに転身。現在は育児と仕事を両立しながら、長年ファッション業界にいた自身のストーリーや、同年代の同業者、仕事と家庭の両立に頑張るママにインタビューしたエピソードを執筆する。