気づいたらレジに長蛇の列
夕方の混み合う時間帯。私はいつものようにドラッグストアでレジを担当していました。次々に並ぶお客様たち。1人でさばくには限界が近く、私はレジ応援を呼ぼうとスタッフ呼び出しボタンを押しました。
けれど、鳴らない。何度押しても全く反応がないのです。(あ、そういえば)。昨夜、この辺り一帯でほんの少し停電があったことを思い出しました。実はスタッフ呼び出しボタンは、一瞬でも停電があるとバックヤードにある復旧ボタンを押さない限り使うことができません。
いつもは他のスタッフが気づいて復旧ボタンを押してくれることがほとんど。私は「まぁ、誰かがそのうち気づいてくれるだろう」と軽く考えていました。しかし、この日に限って誰も気づきません。そしてレジには長蛇の列が……。
「どうするのよ?」お客さんの一言に覚悟を決めた
焦る気持ちを抑えながらレジを続けていた私に、「他のスタッフ呼ばないの?」とイライラした様子の中年女性が言いました。「実は呼び出しボタンが作動しなくて呼べないんです」と事情を説明すると、「じゃあどうするのよ?」とさらに不満げな表情。
(もう腹をくくるしかないか……)と私は覚悟を決めました。周囲のお客様に「少しビックリされるかもしれませんが」と断ってから、大声で叫んだのです。
「レジ応援~、お願いしま~す!!」
同僚から聞いた真実
しかし、反応はありません。
「やっぱり聞こえないか……」と落ち込んだその時、「ごめん、遅くなって!」そう言って駆け込んできたのは、同僚のKさん。すぐに隣のレジに入ってくれたおかげで、並んでいたお客様の会計もスムーズになり、場の空気も落ち着いてきました。
あとでKさんに話を聞くと、あの時彼女はバックヤードにいて、私の声は聞こえていなかったと言います。「それならどうして来てくれたの?」と私は尋ねました。
実はその頃、他のスタッフたちが「レジ応援の声が聞こえた!」「ボタン鳴ってないかも」と、それぞれ接客中だったにもかかわらず駆け回ってくれていたそうなのです。「少しお待ちいただけますか?」とお客様に声をかけ、私のもとへ応援に行ける人を探してくれていたことも知りました。
トラブルの中で気づいた“ありがたさ”
忙しい時間帯で、それぞれお客様の対応に追われている状況でも、助けようと動いてくれていた仲間たちがいたこと。直接駆けつけてくれたKさんだけでなく、見えないところで気を配ってくれていた仲間の存在を知り、胸が熱くなりました。
接客業は“個人の仕事”に見えがちですが、実は見えないところで支え合う“チーム戦”なのだと、改めて実感した出来事でした。
【体験者:40代・女性パート、回答時期:2025年6月】
※本記事は、執筆ライターが取材した実話です。ライターがヒアリングした内容となっており、取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
EPライター:hiroko.S
4人を育てるママライター。20年以上、接客業に従事。離婚→シングルマザーからの再婚を経験し、ステップファミリーを築く。その経験を生かして、女性の人生の力になりたいと、ライター活動を開始。現在は、同業者や同世代の女性などにインタビューし、リアルな声を日々収集。接客業にまつわる話・結婚離婚、恋愛、スピリチュアルをテーマにコラムを執筆中。